お金の使い道からみたASEAN主要国の違い

RSS
約6億人の人口を抱え、域内全体としては2016年にかけて年率5.5%の実質経済成長率が見込まれているASEAN諸国だが、所得水準には大きな差がある。ASEAN全体の2010年の1人あたり所得は3,107ドル(IMF統計を基に大和総研推計)。しかし、最も所得の低いミャンマー(702ドル)は、シンガポール(43,117ドル)の1.6%の水準に過ぎない。

所得水準によって、家計の消費パターンは大きく変わる。例えば、消費支出に占める飲食費の比率を表した「エンゲル係数」は、比率が高いほど生活水準が低いと考える目安となっている。今回、世界の消費市場の分析を行っているEuromonitor Internationalの資料を基に、アジアの主要12ヵ国・地域の使途別消費支出の比率を求め、12ヵ国の平均に比べて比率が著しく高い、または低い項目を調べてみた。以下では、この12ヵ国に含まれているASEAN主要国(シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム)について、消費パターンの特徴を紹介する。

図表1. 使途別にみたアジア主要国・地域の消費比率(2009年)


(注1)12ヵ国・地域の各消費支出比率の平均値及び分散から偏差値を求め、偏差値60以上の項目を橙色に、同40以下を青色でシャドーしている
(注2)カッコで表した使途別の内数では、比率の小さい項目を省略しているため、合算値は必ずしも一致しない

(出所)Euromonitorより、大和総研作成

●シンガポール(1人あたり所得:43,117ドル)
所得水準が最も高いことが、食費の低さと娯楽費の高さに表れている。この傾向は家電にも表れており、白物家電の比率は低いが、AV機器や情報機器等の娯楽目的の比率は高い。その他、比率が高いのは、家事サービス、新聞・雑誌、自動車購入費、医療費。

●マレーシア(同:8,423ドル)
イスラム教を国家の宗教としていることもあり、アルコール・タバコの比率が低い。また、医療費や教育費、パーソナル・ケアへの支出比率も低い。比率が高いのは、家賃(修繕費含む)。その他、この6ヵ国の中で自動車の世帯普及率が最も高いこともあり、ガソリン代等の比率も高い。

●タイ(同:4,992ドル)
マレーシアと対照的。アルコールの比率が高く、家賃の比率が低い。交通費については両国とも比率は高いが、タイの場合は自動車普及が急速に進んでいることによる自動車等購入が要因。対照的な両国ではあるが、教育費については共に比率は低い。

●インドネシア(同:3,015ドル)
所得水準が上記3ヵ国より低いことから食費の比率は高い傾向にある。それでも同国より所得水準が低いベトナムやフィリピンよりも食費への支出が高いことから、食費の高さが特徴的といえる。また、同じイスラム教のマレーシアとの比較も興味深い。両国ともアルコールへの支出比率は低いが、インドネシアはタバコへの支出が非常に高い。

この他、インドネシアの特徴としては、水道・光熱費や教育費の比率が高く、医療費、ガソリン代等、パーソナル・ケアの比率が低い。

●フィリピン(同:2,007ドル)
似たような支出項目での濃淡が特徴的。例えば、生活に密着する項目では水道・光熱費の比率が高い反面、通信費の比率が低く、「ハレ」の要素が高い項目では被服や娯楽の出費を抑える一方で、美容等のパーソナル・ケアへの出費が多い。また、家事サービスよりも家具(モノ)を買う傾向も窺える。

●ベトナム(同:1,174ドル)
白物家電や食器、家庭用品等の生活関連支出の比率が高い等、近年の所得の増加の影響が表れている。一方で、今回の6ヵ国の中では最も所得が低いこともあり、食費や教育費の比率が高く、娯楽費もまだ抑えられている。家賃や水道・光熱費の比率も低い。また、自動車の普及が遅れていることもあり、電車・バス・タクシー等の公共移動手段の比率が高い。

IMFの見通しに拠れば、2010年と比べた2016年の1人あたり所得は、ベトナムとインドネシアで7割増、タイで5割増、マレーシア、フィリピン、シンガポールが3割増となる見込みである。これらの見通しや足下の耐久消費財の世帯普及率からみると、今後、特にベトナム、インドネシア、タイで、白物家電やAV機器等の娯楽性の高い家電の消費市場が拡大すると期待されよう。

図表2. 耐久消費財の世帯普及率(2009年)


(注)普及率75%以上を橙色に、同10%未満を青色でシャドーしている

(出所)Euromonitorより、大和総研作成


このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

関連のサービス