東アジアの経済成長モデルは転換できるのか

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このところ、世界の成長センターであるアジア経済、特に中国、ASEANなど東アジア諸国の経済成長に注目が集まっている。IMFによれば、2010~2015年に発展途上アジア諸国の大半が高い経済成長を達成すると予測しており(26カ国のうち平均実質経済成長率が5%以上の国は16カ国とされている)、如何にこれら高成長地域との結びつきを強めていくか、日本経済(企業)にとってその関心が大きいのは無理もない。また、ASEANでは既に2015年を目標に経済共同体を実現し、まずは域内におけるヒトやモノの自由化を目指す動きが開始されている。かつてのEC(欧州共同体)→EU(欧州連合)といった流れを想像させることもあり、日本としてもASEAN地域との関係において貿易障壁を取り除く努力や金融面での協力を推進し、東アジア域内での影響力確保に余念がないといったところか。

一方で、世界経済全体における東アジア経済の位置づけを考えた時、たいへん気になる問題がある。それは、東アジア諸国の経済発展が、基本的に輸出志向の発展モデルをベースに進展している点にある。周知のように東アジアの経済発展は、80年代の新興工業経済地域(NIEs:香港、韓国、台湾、シンガポール)にはじまり、中国やASEAN4(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン)、さらにはCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)へと、日本の高度成長モデルと似たような形で進展したのが特徴だ。国により産業政策の形態は異なるが、先進国から最新技術を導入して工業化を進め、同地域における賃金が上昇するとさらに他の地域へ進出するという、いわゆる雁行型発展形態の発展モデルである。

同発展モデルでは経済成長のエンジンは輸出そして輸出のための生産設備への投資であり、そのために高い貯蓄率を維持することが必要になる。特に1998年のアジア通貨危機以降は経常収支の黒字を維持することがあたかも至上命題とされたような経済政策が展開されてきた。この結果、東アジア諸国における2000年以降10年間の経常収支黒字の累計額は、4兆3,000億ドル(下表ASEAN 4、NIEs、CLMV、中国、日本の合計)に達している。これは毎年のように巨額の経常収支の赤字を出し続けているアメリカにおける赤字累積額5兆7,000億ドルのおよそ4分の3の裏付けとなる計算だ。言うまでもなく、世界全体の経常収支はゼロサムだから、黒字の裏には必ず赤字を引き受ける国の存在が不可欠である。この他、目を引くのは中東・北アフリカの黒字累積額がアメリカ赤字の約4分の1を占める点だが、要するに東アジアの経済成長はアメリカの過剰消費を前提にその大半の生産・供給を担うことで実現されてきたのが現実だ。

世界金融危機の勃発でアメリカの過剰消費=巨額な経常収支赤字、つまりグローバル・インバランスの持続は困難なことが明白となった。そして、東アジア地域の人口が世界の約半数を占める点、欧州はほぼ経常収支がバランスしている現状を考えると、今後アメリカの経常収支赤字が縮小するのであれば、東アジア諸国の経常黒字もまた縮小を余儀なくされることになる。東アジア経済のエンジン、輸出志向の経済発展に翳りが出ることは必至と思われるが、東アジア諸国においては自ら内需拡大を志向する経済モデルへの転換を図る用意があるのだろうか。特にその際、域内で最も内需拡大へ向けた政策展開が期待される国、それは日本(そしてあるいは中国)に他ならない。過去幾度となく唱えられてきた「内需拡大・消費主導の経済」へ、今度こそ日本は本当に実現へ向けて動き出せるのだろうか。その成否が東アジア経済で影響力を確保する大きな鍵を握っていると思われる。

表:世界の経常収支(10年間の累計額)


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