最近の年度経済成長率は「ゲタ」に注意

RSS

2012年10月23日

  • 市川 正樹
経済予測を行っている人には常識なのだが、最近の年度ごとの経済成長率は「ゲタ」にかなり左右されている。

年度経済成長率は、前年度の四半期のGDPの平均から、その年度の四半期のGDPの平均がどの程度変化したかで計算される。しかし、前年度が上り調子だったか、下り調子だったかによって、発射台が異なってくる。前年度の最終四半期に既に高い水準に達していれば、その分、見かけ上、その年度の成長率は高くなる。「ゲタ」(Carry over)とは、その年度の各四半期が、前年度の最終四半期と同じ水準で推移した場合(年度内の成長がゼロ)でも達成できる成長率のことであり、これが大きければ発射台が高い。計算は、前年度の最終四半期の水準(季節調整済)を、前年度の四半期の平均の水準で割ってパーセント表示することにより行う。

下の図のように、GDPの変化率ではなく、水準をグラフ化すれば理解しやすい。2009年度の成長率は▲2.1%、2010年度の成長率は3.3%であったので、これだけみれば、2010年度の方が経済状況は良かったようにみえる。しかし、2009年度へのゲタは▲4.9%とマイナス幅が非常に大きかった(2008年度内は、リーマン・ショックにより、GDPが坂を転げ落ちるように低下したため)。ところが、2009年度に入ると、順調な成長が続き、年度成長率は▲2.1%まで戻した。更に、この2009年度内の順調な増加が、2010年度へのプラスのゲタ1.8%をもたらし、2010年度の成長率は3.3%となった。しかし、グラフを見れば2010年度内は必ずしも順調に成長したとはいえず、特に最終四半期は大幅に低下している。見かけ上の年度成長率と、実情は逆だったのである。

更に、2010年度は尻下がりだったため、2011年度へのゲタは▲1.4%とマイナスになった。しかし、2011年度内は、復興需要もあり緩やかに増加を続けたため、年度成長率は▲0.0%まで戻した。見かけ上の年度成長率は2010年度の方が大きいが、実情は2011年度の方が良かったわけである。

2011年度がこのように尻上がりだったため、2012年度へのゲタは1.4%である。このように、この4年間は、プラスとマイナスの比較的多くのゲタが交互に現れるようになっており、見かけ上の年度成長率にとらわれないよう、注意が必要である。

さて、2012年度については、8月17日に「平成24年度の経済動向について(内閣府年央試算)」が公表され、2012年度の実質成長率は2.2%と見込まれている。ゲタが1.4%ある(以下、年央試算が公表された時点での統計値を使用)ので、純粋な年度内の成長率は0.8%ということになる。残り3四半期は平均して年率で1%程度の成長が見込まれていると計算でき、2.2%という数字よりも実勢はかなり低くなる。

「ゲタ」はGDPに限らない。例えば、上記内閣府試算では、2012年度は、公的資本形成は1.0%の伸びであるが、2011年度は復興需要が年度末にかけて現れて尻上がりとなったため、2012年度へのゲタが2%程度ある。内閣府試算の年度間変化率1.0%という数字は、2012年度内の伸びはマイナスと見込んでいることになる。第1四半期は1.7%伸びたので、残り3四半期平均は、▲1.7%とマイナスになる。なお、内閣府試算では、現在議論されている経済対策は考慮されていないと思われる。

更に、消費税は2014年4月に8%に引き上げられる予定であるが、仮に駆け込み需要が2013年度末にかけて発生したとすると、年度末の水準が上がり、その分、ゲタが大きくなる。1997年度に消費税が3%から5%に引き上げられた際には、1996年度の四半期成長率は、0.5%、0.4%、1.6%、1.3%と尻上がり気味に増加した(平成2暦年基準、季節調整済)。この結果、1997年度へのゲタは1.9%となり、見かけ上1997年度の成長率が底上げされ、▲0.1%と横ばいの数字となったが、実勢はもっと悪化していた。2014年度の年度間成長率も、ゲタの分高くなる可能性があり、見かけ上の年度成長率の数字に惑わされないことが必要であろう。もとより、このような駆け込み需要とその反動減を回避するソフトランディング政策が展開されることが重要ではある。
最近の実質GDPの推移

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。