外国人労働者受入れをめぐる法的枠組みと統合政策の重要性

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2012年09月12日

  • 長谷川 永遠子
外国人労働者の受入れは1980年代後半、バブル経済による人手不足緩和の一助として進められた。バブル崩壊後は、少子高齢化に伴う中長期的な労働人口維持の観点から語られるようになっている。群馬県大泉町や岐阜県美濃加茂市のような外国人集住都市のみならず、東京や大阪といった大都市でも飲食店や建設現場で働く外国人労働者はもはや珍しくなくなった。ここで日本の外国人受入れをめぐる考え方や彼らの日本での活動を規定する法的枠組みを改めて確認しておきたい。

日本の外国人受入れをめぐる基本的な考え方は、「出入国管理及び難民認定法」いわゆる入管法に記されている。同法では外国人受入れの範囲を「我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案して法務省令で定める」としている。つまり、来るもの拒まずではなく、国が受入れる人材を主体的に選ぶという姿勢が示されている。

入管法には在留資格を規定した2つの別表が付けられている。在留資格とは外国人が日本で行うことができる活動を抽象的に規定したもので、別表第1は活動内容に応じて滞在許可が下りるもの、別表第2は地位や身分に基づいて滞在許可が下りるものをまとめている。ここから読み取れることは、国際競争力強化のため専門的技能を持つ高度人材は積極的に受入れるが、単純労働者の受入れは慎重に検討するというものだ。どちらの表にも飲食店アルバイトや建設現場での日雇いといった単純労働は含まれていない。


「出入国管理及び難民認定法」の別表にまとめられた在留資格

(出所)出入国管理及び難民認定法より大和総研作成

下図は日本で働く外国人労働者をグルーピングしてみたものである。今や日本で働く外国人の中で最大の集団となった日系人は別表第2の定住者に当たる。20世紀初頭に貧しい日本から南米に移り住んだ日本人の子孫である。1990年の入管法改正によって、3世までの日系人とその配偶者の受入れが始まり、その後急速に拡大した。在日韓国・朝鮮人や在日中国人等、日本固有の歴史と血統に基づき、日本人と同じ活動が認められた人々と同じカテゴリーに入る。定住者は入管法上の外国人労働者ではないが、彼らが働きに出れば労働者となり、かつ活動に制限を受けないため単純労働にも就くことができる(※1)


外国人労働者の分

(注1)就労状況欄に向かう矢印の太さはヒアリング等に基づくイメージを表しており、統計数値に基づくものではない。
(注2)分類ごとの人数は2011年10月末、不法滞在者数のみ2012年1月1日現在。
(出所)法務省、厚生労働省、経済産業省資料より大和総研作成

同じように外国から来て日本で単純労働に就いているのが研修・技能実習生達だ。こちらは7割が中国人である。彼らは別表第1で定められた就労先に応じてビザが出ているが、法的には研修・技能実習中であり、労働者ではない。このように日本の外国人労働者受入れをめぐっては法的枠組みと現実が乖離しており、もはや単純労働者受入れの是非といった議論に終始している段階ではないだろう。

「高度人材を選択的に受入れ、単純労働者の受入れは慎重に」という法的枠組み自体は国際的にも一定の理解が得られるものだ。しかし、移民受入れの歴史が長い欧米では移民排斥や人権侵害、移民の家族呼び寄せに伴う教育、雇用、福祉の問題が深刻化しており、選択的受入れにはどうしても限界がある。そこで欧米では移民の受入れ社会への統合を促進する動きが広く見られている(※2)。日本でも外国人労働者とその家族の定住・永住化という現実を前に、彼らを日本社会へと統合する取組みを強化すべきだろう。

(※1)入管法では原則日本に10年間滞在しており、素行が善良である、独立の生計を営むに足る資産や技能がある等の条件をクリアすれば永住を許可することができると定められている。定住者として入国した外国人が永住権を取得するためには日本滞在5年間で、日本人の配偶者となれば同3年間で永住権の申請を行うことができる。このため、日系人を中心に毎年3~5万人が永住権を取得している。
(※2)ドイツでは言語教育等の受講を義務付ける新移民法を2007年に制定。フランスでは2006年移民法改正で新規移民に「受入れ・統合契約」の締結を義務化。多文化主義を国是としてきたイギリスやアメリカでも、語学と公民の試験合格を市民権獲得の要件とした上で、市民教育の強化に取組んでいる。

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