再エネのFIT導入で家庭の電気代は300円/月上昇

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2012年07月23日

2012年7月1日、再生可能エネルギー(再エネ)によって発電した電力を、電力会社が長期間にわたって固定価格で買い取る「固定価格買取制度(Feed-in Tariff、以下FIT)」が開始した。これまでの買取制度は、主に家庭部門が太陽光発電した電力のうち、自家消費分を除いた余剰電力のみを対象としていた。FITの導入により、家庭部門では従来の制度が維持される一方で、企業は再エネ投資を行って発電した電力を長期間固定価格で売却することが可能となった。安定的に一定の収益を確保できることから、今後は事業目的とした再エネ投資が急速に拡大すると予想される。


東日本大震災以降、日本は電力需要が高まる夏と冬に電力不足のリスクを抱える状況が続いており、原発に代わる新たな発電源を得ることは喫緊の課題である。FITの導入はその解決策の一つとして期待されている。だが、再エネ電力の買取費用は電力料金へ転嫁されるため、再エネの発電量増加に伴って家計や企業の電力料金の負担は重くなる。電力供給体制を整えると同時に、電力料金の上昇が家計や企業の健全な経済活動を妨げていないか、十分に注意を払わなければならない。


それでは、電力料金はFIT導入によってどの程度上昇するのであろうか。ここでは主に、(1)電力需要量や火力発電による発電量、化石燃料価格は一定、(2)再エネの発電量シェアを制度開始後10年目で約20%へ引き上げ、その分だけ原子力のシェアを引き下げる、(3)再エネ発電量の内訳は、「エネルギーミックスの選択肢の原案について」(2012年6月19日)の「選択肢<2>」に準ずるとする、(4)原発の発電単価は10.2円/kWh(2011年12月発表の政府試算値)、という4つの仮定を置いたうえで、制度導入10年目の電力料金の上昇幅を試算した(※1)


試算結果は下図の通りである。それぞれの図には、制度開始後10年目でも買取価格が横ばいのケース(棒グラフ左側)と、買取価格が徐々に低下して10年目で半値まで低下するケース(棒グラフ右側)を載せている。すでにFITを導入した国では、規模の経済や技術進歩から設置費用が低下し、それを反映して買取価格が低下した。そうした経験を踏まえれば、買取価格が半値まで低下するケースの方がより現実的な想定と思われる。その場合、標準的な家庭の電力料金は月額でおよそ300円上昇すると見込まれる。この金額が高いと感じるかどうかは、所得環境などによって異なるであろう。ただ、FIT導入のほかにも、火力発電の稼働率や化石燃料価格の上昇といった電力料金の押上げ要因がいくつも存在することを踏まえれば、固定費的に300円/月上昇したときの負担感は小さくないのではないか。


再エネ投資を促進するにあたっては、家計や企業の負担感のほかに、設備の導入ペースも重要である。FITでは買取価格と買取期間が固定されるため、電力総収入が総費用を上回る限り、「必ず儲かる」投資となる。それは、買取価格や期間の設定次第ではバブルが生じる可能性があることを意味しており、実際にスペインは2007~09年にバブルとその崩壊を経験した。持続的なペースで再エネ投資を拡大させるためにも、例えば再エネ投資がコントロール不能なほど過熱しそうな場合に、早い段階で買取価格を引き下げるルールを事前に明確にしておくことが望ましいと思われる。また、買取価格を通じたアクセルとブレーキをうまく使い分けることが難しいとすれば、事前に設備導入量の目標値を設けて周知させることも一案であろう。


制度開始後10年目に再エネ発電割合20%を達成した時の電力料金上昇幅

(注)1kWh当たりの電力料金上昇額に月当たりの標準的な使用量(家計:300kWh、企業:240万kWh)を乗じた。
(出所)大和総研作成

(※1)詳しくは、神田慶司・溝端幹雄・鈴木準「再生可能エネルギー法と電力料金への影響」(大和総研レポート、2011年9月2日)を参照。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司