「貯蓄から投資へ」の挫折

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2012年04月26日

  • 木村 浩一
小泉政権時に「貯蓄から投資へ」のスローガンの下、2003年から始まった証券税制の優遇措置(株式、株式投資信託の配当、キャピタル・ゲインなどの税率を20%から10%に引下げ)が、2013年末に終わる。

10年間を振り返ってみると、個人金融資産に占める株式などの有価証券の比率は、2003年の約10%から、株価が上昇した2007年には約20%になったが、直近では再び10%に戻っており、行って来いの結果となった。一方、現預金の比率は、50%前後であった1990年代前半から上昇し、2000年代に入ってほぼ55%前後で推移し、「貯蓄から投資へ」は実現しなかった。

この10年間の投資環境はというと、2008年にリーマン・ショックが起こるなど、2007年以降株価は下落、金利はコンマ以下を競う超低金利時代が続き、株式や債券に投資魅力がなく国内の有価証券に投資をする環境にはなかった。特に、デフレが長期化する状況では貨幣価値が上昇するので、預貯金で金融資産を保有することが賢明であったといえる。企業にしても、インフレ下では投資をしないと保有する資金の価値が下がるが、デフレ下では現預金の保有のままでは収益率は向上しないもののその実質的価値は上昇する。

「貯蓄から投資へ」の失敗は、証券税制の導入とあわせて、企業価値向上など有価証券投資の魅力を高める措置をとらずに、スタートしたことがその一因であろう。

資金循環勘定をみると、企業部門は家計部門を上回る資金余剰となっており、企業の投資不足となっている。企業収益が向上し、ROEを高めるには、日本企業に投資を促すことが必要だが、現実には資金を貯め込んでいるのが実情である。この結果、国内金融市場は恒常的に金余りとなり、超低金利が続いている。株価の不振、低金利では、個人の資金は、預金をするか、投資が活発な、従って高いリターンを期待しうる海外市場に流出するしかなかった。

国家の衰退が始まっている我が国が再び活力を取り戻すには、結果としてであれ「貯蓄から投資へ」が実現しなければならない。そのためには、個人にも企業にも投資を促すように、(1)デフレの克服、(2)法人税率の引下げ、規制緩和などにより企業投資を促進する環境の整備、が必要だろう。

日本は、バランス・シート調整、人口の高齢化などにより「失われた20年」を経験し、いまだデフレを克服できないでいる。リーマン・ショック後は定期預金の残高が増え続けている証券投資大国・アメリカも、日本と同様、今後も低金利や企業の金余りが長期化するようであれば、日本化(「投資から貯蓄へ」)を心配する必要が出てくるのだろうか。

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