温暖化防止に向けて中国、そして日本は?

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2012年01月05日

  • 金森 俊樹
昨年11月末から12月前半にかけ、南アフリカのダーバンで開催された気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)を経て、さっそく本年から京都議定書後の新たな国際的枠組み構築に向けての(おそらく長い)議論が始まる。COP17は、難航を極めたものの、将来の枠組み構築への一応の道筋を示すとともに、京都議定書の第二約束期間に向けての合意、緑の気候基金(GCF)の基本設計についての合意など、最低限の成果は出して終了した。日本にとって、京都議定書は温室効果ガスの2大排出国である米中が参加していないことに加え、日本のこれまでの省エネ努力や、欧州では東西分裂時代が終わりを告げ、エネルギー効率改善の余地が大きい旧東側が組み込まれた点などが、必ずしも適正に考慮されておらず、日本にとって「アンフェア」と言わざるを得ない面があった。その意味で、今回、従来からの主張を通して、第二約束期間には参加しないとした点は、当然の対応であった。ただし、それだけに今後、原発事故の影響が残る厳しい条件の中で、自主的にどれだけ温室効果ガス削減を達成できるか、途上国の取り組みに対し、資金・技術・人的資源の面でどれだけ支援を強化していくことができるかが、国際的により重要になったと言えよう。

COP17でその動向が最も注目されたのは、やはり中国であり、「会議は始終、中国に振り回された」との報道が目に付く(12月13日付Financial Times等)。注目されるべき出来事は、次の二つではなかったかと思う。第一は、必ずしも周知されていないと思われるが、COP17が開催される直前の11月22日、国務院弁公室が2011年の中国気候変動白書「中国応対気候変化的政策与行動白皮書(2011)」を発表したことである。白書の大半は、中国の気候変動に対するこれまでの取組み、12次5ヵ年計画で掲げられている政策の説明に充てられているが、さらに国際交渉に向けての以下の5つの原則的立場が明記されている。かつて90年代半ば、筆者自身、京都議定書の前哨戦となる国際交渉に何度も臨んだことがあるが、これらは当時から(おそらく92年のリオ・サミットから)、中国(および多くの途上国)が主張し続けていることで、特に目新しさはない。

  1. 京都議定書を延長して先進国が新たな削減義務を負い、技術移転や資金支援をさらに進める枠組みを構築すること。
  2. 「共通だが差異のある責任」原則(温暖化の責任は先進国にあり、先進国は温室効果ガスを率先して削減する歴史的責任がある)を堅持。
  3. 持続可能な経済発展原則を堅持し、貧困解消等を進めること。
  4. 先進国は途上国に資金・技術面での支援を強化すること。
  5. 国連の枠組みの中での、コンセンサス(「協商一致」)の原則に基づく交渉であること。

第二の動きは、COP17期間中に、中国の代表が2020年以降の枠組みで、温室効果ガス削減義務を負う用意があるニュアンスの発言をしたことで、各国が大きく注目するところとなった。ただ発言を仔細に見ると、法的枠組みに参加するための5つの条件を挙げており、表現はやや異なるものの、それらは上記白書で掲げているものと基本的に同じであり、特に「共通だが差異のある責任」、「発展段階・水準に応じた責任と義務」、「先進国の約束履行が十分か」といった点が強調されており、今後中国として、いかようにも主張できる余地が残されている。

中国国内の報道(12月12日付人民日報、14日付第一財経日報等)を基に、COP17の結果を中国がどう受け止めているかを探ると、特に以下の点が注目される。

  1. 欧州は新たな枠組み構築に向けての作業部会設置等の道筋、途上国は京都議定書延長、米国は今後10年間、引き続き何の義務も負わないことをそれぞれ勝ち取った妥協の大会だった。
  2. 京都議定書延長は勝ち取ったが、先進国の第二約束期間へのコミットには疑念が残る結果である。
  3. 「新たな枠組みの発効・実施は2020年から(from 2020、中文訳は、从2020之後)」という表現は、必ずしも2020年に発効・実施されなければならないことを意味しておらず、その点で、途上国にとっては十分な時間的余裕が与えられている。
  4. GCF(※1)については先進国からの財源の裏付けがない。また、米国はワシントンDCの地球環境ファシリティ(GEF)の下に置きたがっているが、途上国は独立してジュネーブに置くべきと主張するという、センシティブな問題を抱えている。環境NGOはジュネーブが望ましい選択だとしている。

(※1)気候変動枠組条約で規定されている資金メカニズムの運営主体(operating entity)をどうするかは、条約発効以来、先進国と途上国の大きな対立点となってきたもので、GCFはその延長線上に載った話と思われる。これまでGEFに委ねるという形で、先進国の主張が通ってきたが、GCFの設立は、独立した基金を主張してきた途上国の主張が、一応表面的には通ったものと見ることができる。ただ今後具体化する段階で、従来からの対立が再燃するおそれを孕んでいるように思われる。

新たな枠組みについての採択文書の「protocol, legal instrument or agreed outcome with legal force」というあいまいな表現に象徴されるように、COP17が、全体として妥協の会議であったことは間違いない。また、中国の上記(3)の主張に見られるように、新たな枠組みの開始時期ですら、同床異夢になっているおそれがある。中国は今後も、対外的には先進国の「歴史的責任」や「約束履行」を主張しながら、新たな枠組みにいつどう関与するかを探っていくことになろう。他方、国内的には、現行5ヵ年計画で、経済成長を妨げない形で、GDP単位当りのCO2排出量やエネルギー消費量の削減目標を掲げているが、さらに踏み込んで総量規制目標も検討中との情報もある(※2)。ただ何れにせよ、来るべき新指導層の下で、こういった問題がどの程度、優先的な政策課題として扱われるのかはなお未知数である。中国の主張してきた「先進国の歴史的責任」は一理あるが、国際エネルギー機関(IEA)などの見通しによると、控えめに見積もっても、2015年頃までには、中国(そしてインド等他の新興国)の歴史的排出量は米国等先進国に匹敵するようになり、新興国も「歴史的責任」を負うべき時期が近づいている。日本としては、上述の通り、第二約束期間には参加しないとしても、この分野での国際協力を従来にも増して自主的に推進する一方、中国等新興国の取組みを注視し、これら諸国を新たな国際秩序の枠組みに取り込んでいく戦略を考えていく必要がある。COP17は妥協の中で、やむを得ず、重要な「決定」は先送りするという「決定」をしたが、温暖化の進行は、締約国の「決定」を待ってはくれない。

(※2)2011年12月20日、中国国務院は、環境保護分野の第12次5ヵ年計画を発表した。その中では、二酸化硫黄や窒素酸化物等の汚染物質排出についての、計画期間中の総量規制目標(本体12次5ヵ年計画と同じ)、および本体計画より踏み込んだ水質改善、大気汚染の改善目標が掲げられ、そのための投資規模として3.4兆元(うち1.5兆元を8つのグリーン・プロジェクト分野に優先的に支出)という数字が示されたが、温室効果ガスの総量規制は見当たらない。

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