ソーシャルメディアの普及が海外企業を日本化する

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2011年12月12日

  • 大嶽 怜
米国では最近、ソーシャルメディア(※1)関連の話題が非常に多い。企業もソーシャルメディアをいかに企業戦略に利用するかに強い関心を寄せている。例えば、ソーシャルメディア上にあがった不満の声をいち早く探し出し対応する、公開された個人情報を分析し顧客の個性に合わせたサービスを提供する、といったものだ。先日もこのような手法でヘルプデスクの品質向上を支援するというソフトウェアの説明会に、IT関係者のみならず多数の経営関係者が参加し真剣にメモをとる姿を眼にした。

しかし、正直なところこのような光景には違和感を覚える。米国駐在員の間では、米国のヘルプデスクのサービス品質の悪さは日常的な話題の1つだ。先日も大手銀行への問合せ電話の途中で30分以上も待たされ辟易した。また担当者の対応の質も安定せず、とても適切に管理されているとは言い難い。米国企業は人権や人命に関わる問題などの扱いには非常に敏感である。しかし顧客対応などへの不満の声には、そもそも日本企業ほど関心を持っていないように感じる。このような文化を持つ米国企業が、いきなり揃って方針を転換し顧客一人ひとりに合わせた細やかな対応への投資を考えるものだろうか。

この疑問を米国の友人にぶつけてみると面白い答えが返ってきた。彼は、商品を選ぶときに見知らぬ他人が発したクレームの情報はあまり気にしない。多くの国から人が集まる米国では、自分とは異なる様々な価値観を持つ人間がいるからだそうだ。しかし一方で、自分が共感できる友人の意見は非常に参考にする。これは、ソーシャルメディアを利用したマーケティングの基本的な思想に面白いほど合致する。この分野の基本的な戦略は、大雑把にいえば、顧客の友達を顧客にすることである。友達の友達が顧客になり、さらにその友達に伝播する。また、逆に1人の顧客が不満を持てばその情報も伝播する。ソーシャルメディアが持つ伝播の力とスピードは今更説明するまでもない。この影響力を無視できなくなった米国企業が、一人ひとりの顧客に丁寧に向き合う必要に迫られているのだ。

ソーシャルメディアの活用というと、米国発の最先端分野というイメージが強く、日本企業は十分に活躍出来ていないように感じる。しかし、どんなに最先端の技術をつかっても、ヘルプデスクなどの業務で最終的に顧客に接するのは人であり、その品質はソフトウェアだけでは決まらない。むしろ要員のトレーニングや管理体制などのノウハウが品質を左右する。結局のところ、最終的にこの技術が目標とする「一人ひとりに丁寧に向き合う顧客対応」は日本企業が何年も前から培ってきたものである。日本企業にも、今後ソーシャルメディア活用の分野で活躍するチャンスは十分あるのではないだろうか。

(※1)ソーシャルメディアとは、Facebookに代表されるようなインターネット上のプラットフォームを利用してユーザ個人が情報を発信し、それに他のユーザが反応することでユーザ同士がつながり、形成されるメディアのことをいう。

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