オープン・イノベーションによる起業の促進

RSS

2011年11月09日

  • 奥谷 貴彦
スマートフォンが本格的に普及し始めている。並行して、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の利用も浸透している。SNSの1つであり、ベンチャー・ビジネスの代表的な成功事例であるフェイスブック発祥の地であるアメリカではスマートフォンを使いフェイスブックに接続し、連絡先を交換することが多い。

このようにベンチャー・ビジネスは新技術や新商品・サービスの開発といったイノベーションを市場にもたらす。そして産業や社会のパラダイムをシフトさせるような原動力となる。多数の優良なベンチャー・ビジネスが創出されると、経済が活性化する。しかし、残念ながら革新的なベンチャー・ビジネスは日本の企業全体から見れば少数でしかない。従業員の雇用を伴う新規事業所の開業率は80年代に6%から7%近辺で推移したあと90年代に落ち込み、その後は4%から5%で低迷している。

今後起業が増加するにはどのような仕組みが必要であるだろうか。多数の優良なベンチャー・ビジネスを創出するアメリカの例を見てみたい。シリコンバレーの大手IT企業は事業創造の根幹となる技術をベンチャー・ビジネスからも求め、買収する。このような経営戦略はオープン・イノベーションと言われる。大手企業は革新的な技術やサービスを提供するベンチャー・ビジネスを買収し、競争力のある技術を短期間で取り込むことができる。起業家は創業から株式市場上場までの長期間を要さずに売却益を得ることができる。その起業家が売却益を得た成功事例が次世代の起業家を生み出している。売却益が獲得されるまでの期間が短くなれば、投資家は創業期のベンチャー・ビジネスに投資しやすくなる。そして更に起業が促進される。日本での起業を増加させるにはオープン・イノベーションの促進が有効である可能性が高い。

日本の企業にとって、オープン・イノベーションの導入は魅力的だろうか。オープン・イノベーションは先端的産業と親和性が高い。IT産業は革新的事業モデルが必要とされる。またハイテク・バイオなどの産業では、研究開発型ベンチャー・ビジネスの存在が重要視され始めてきている。その一方で、多くの日本の大企業は垂直型の経営を採用し、自前での研究や開発を重視する。オープン・イノベーションには消極的である場合もある。しかし、今後グローバルな市場で企業が勝ち残っていくには技術革新の速度や多種多様な文化を背景にした需要に対して、機敏に対応することも求められるだろう。企業がこの問題に対処するには、必要とされる技術や需要に応じたベンチャー・ビジネスを買収して、技術やサービスを獲得する、オープン・イノベーションの促進が求められる場合もあると考える。ベンチャー・ビジネスの買収が進めば、日本においてもベンチャー・ファイナンスが容易になり、起業も促進される好循環が生まれる可能性が高い。

グローバル化はこれからも速度を上げて進行し、技術革新の速度や多種多様な需要に即応することが更に求められると考える。日本の企業がグローバル市場で競争力を向上させるにあたって、オープン・イノベーションはますます魅力的な選択肢になると言える。オープン・イノベーションによる起業の促進に期待したい。

伸び悩む開業率

伸び悩む開業率

(出所)厚生労働省「雇用保険事業年報」
(※1)開業率=当該年度に保険関係が新規に成立した事業所数/前年度末の適用事業所数×100
(※2)適用事業所とは、雇用保険にかかる労働保険の保険関係が成立している事業所をいう。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。