再生可能エネルギー特措法成立で、風力発電の活用は進むのか?

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2011年09月26日

  • 物江 陽子
8月26日、国会で電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下、再生可能エネルギー特措法)が成立した。同法は電気についてエネルギー源としての再生可能エネルギー源の利用促進を目的とし、電気事業者に再生可能エネルギーによって発電された電力を全量、特定の価格で買い取ることを義務付けるものだ。再生可能エネルギーとして、太陽光、風力、地熱、バイオマス、中小水力が買取対象となる。

この買い取り制度はフィード・イン・タリフ(Feed In Tariff: FIT)と呼ばれる、再生可能エネルギー導入促進のための主要な政策手法で、ドイツやスペイン、中国などで再生可能エネルギー電力の急速な導入拡大に効果をあげてきた。では、日本でも同法成立により、再生可能エネルギー電力は急速な普及拡大が進むのだろうか? それは、今後来年7月の施行までに決定される買い取り価格と期間、そして以下で説明する「接続義務」の除外規定の適用に大きく左右されるため、現時点では未知数である。

大規模水力発電を除く「新」再生可能エネルギーが発電量に占める割合は、08年時点で世界全体で3%、日本でも2%と限定的だが(※1)、欧州を中心に基幹電力となっている国もある。09年の発電量では、デンマークで30%、アイスランドで26%、ポルトガルで21%を「新」再生可能エネルギーが占めている。なかでも存在感が大きいのは風力発電で、発電量に占める割合は、最も多いデンマークで08年に19%に達している(※2)

実は日本でも、風力発電のポテンシャル(賦存量)は非常に大きいと言われている。環境省の調査では、設置可能な土地面積や平均風速等を勘案し、FITが買取価格15~20円/kWh、15~20年で導入された場合に、一定の収益率を確保できる導入ポテンシャルを2,400万~14,000万kWと試算している(※3)。発電量に換算すると09年の総発電量の5~28%に相当する量だ。それでは、日本でもFIT導入により、風力発電の導入拡大は急激に進むのだろうか?

ここで問題となってくるのが、冒頭で触れた「接続義務」の除外規定である。同法は、電気事業者に発電事業者から接続を求められた際の接続義務を定めているが、「電気の円滑な供給の確保に支障が生ずるおそれがあるとき」を例外としている。風力発電は発電量の変動が大きいので、電力の変動量を一定に抑えるために他の電源との調整等によって変動を「ならす」必要がある。このため、日本の電力各社は自社の調整可能量を測定し、風力発電の系統連系可能量を定めてきた。連系可能量は会社により異なるものの、ポテンシャルが多い東北と北海道の連系可能量は、最大出力の5~7%の水準に設定されている(※4)。来年7月に買取制度がスタートしても、この状況が変わらない限り、「接続義務」の除外規定の適用により、風力発電の導入拡大は限定的となる可能性があろう。

さて、それではなぜ、前述したデンマークでは、風力発電の活用が可能なのか? ポイントは国際連系にある。欧州では国を超えた電力の自由化が進んでおり、デンマークではノルウェー・スウェーデン・ドイツの三国との間に、国の発電設備の4~13%に相当する容量の国際連系線を敷設している(※5)。デンマークでは、風況予測システムや調整電源の活用に加えて、これらの国際連系線を通じて、風力発電の発電量が多いときには他国に電力を輸出し、発電量が少ないときには他国から電力を輸入して、発電量の変動を「ならす」ことができる。

翻って日本では、近隣国との国際連系もなければ、これまで地域独占であったために地域間連系も弱い。上述した環境省の調査では、風力発電の導入ポテンシャルの7割が東北地方と北海道に偏在している(※6)。北海道における導入ポテンシャルが803万kWなのに対し、北海道→東北間の連系線の容量は60万kW、東北における導入ポテンシャルが984万kWなのに対し、東北→東京間の連系線の容量は240万kW、東北→北海道間の連系線の容量は60万kWと限定的である(※7)

再生可能エネルギー特措法の影響を見定めるためには、価格・期間の設定とともに、系統連系対策と「接続義務」の除外規定の適用がどうなされるのかを見定める必要があろう。

(※1)IEA(2010)World Energy Outlook
(※2)米国エネルギー情報局資料より
(※3)環境省(2011)「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」、シナリオ別導入可能量の「基本シナリオ」(FIT対応シナリオ)
(※4)2011年2月時点。経済産業省資料より
(※5)ETSO及びデンマーク政府資料より筆者試算
(※6)環境省(2011)、文中の「導入ポテンシャル」は、シナリオ別導入可能量の「基本シナリオ」(FIT対応シナリオ)の数値を使用、以下同じ
(※7)地域間連系線の運用容量は2011年5月時点。電力系統利用協議会電力系統利用協議会資料より

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