被災地における雇用対策としての在宅就業支援事業

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2011年08月17日

  • 鈴木 紀博
本年3月11日の東日本大震災から既に5ヵ月が経過し、被災地域では復興計画の策定が急ピッチで進んでいる。民間企業の事業計画でも同様であるが、計画はその「策定」(formulation)よりも「実行」(implementation)の局面により多くの知恵と工夫を必要とする。特に人口減少と高齢化の過程にある地域での雇用創出には、震災後の人口流出を食い止めるための“時間との戦い”という側面がある。規模の大小を問わず、被災地の雇用創出のためには、あらゆる方策が検討されるべきであろう。そこで被災地における雇用対策の一つとして在宅就業支援事業に注目したい。

在宅就業支援事業とは、子育てや介護或いは障がいなどの理由によって外に働きに出ることが困難な人々のために在宅での仕事を提供する仕組みである。全国の都道府県や市が事業の実施主体となり、これに対して国が補助を行う。都道府県や市は民間等の事業者に業務を委託し、受託事業者は業務を発注する企業等と在宅就業者の間でマッチングを行う。発注企業等に対して営業活動を行って業務を開拓する一方、在宅就業者に対してスキルアップのための研修・訓練を行う。(下図参照)

元来は母子家庭や障がい者が主な対象だが、被災地では地域・職場・家庭などでの繋がりが薄れることによって社会的な孤立が生じる懸念があるため、「社会的包摂」(ソーシャル・インクルージョン)(※1)の考え方に基づいて、その対象を広げることも必要であろう。

(※1)「社会的包摂」(ソーシャル・インクルージョン、 social inclusion)「すべての人々を孤独や孤立から擁護し、社会の一員として受け入れ支え合う」という理念。8月11日に発表された「岩手県東日本大震災津波復興計画」には、この観点に立った取組の必要性が明記されている。

在宅就業の主なメリットは、(1)就業者が自宅で時間に拘束されずに働けること、(2)就業者と業務発注者が地理的に遠く離れていても仕事ができることにある。パソコンを使ったデータ入力やコールセンター機能などIT系の業務が多いが、パソコンのスキルのない就業者のための非IT系の業務もある。例えば、滋賀県の在宅就業支援事業では、洋服のリフォームやリメイクを行っている。

一方、課題としては、(1)在宅就業者が安心して働ける良質で安定的な仕事の確保(業務発注者の開拓)、(2)業務発注者が安心して発注できる均質で安定的な労働力の確保(在宅就業者の募集と能力開発)が挙げられる。この二つの課題は“タマゴとニワトリ”の関係にあり、包括的な課題解決のためには、行政の積極的な対応(※2)が不可欠である。

(※2)例えば、[1]国や自治体の業務の一部を在宅就業者のために切り出す、[2]自治体内で福祉関連部局と経済関連部局が連携して対応する、[3]地域を越えて自治体間で連携し、在宅就業者と業務発注者のネットワークをより大きなものにするなど。

在宅就業は現時点では残念ながら労働市場のメジャープレイヤーにはなりにくい。しかし、雇用創出において補完的な役割を果たすことは間違いない。在宅就業が被災地の雇用の下支えとして一定の貢献をすることにより、雇用形態の一つとして広く一般に認知され、労働市場としての厚みが増すことにも期待したい。

在宅就業支援事業の概要

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