間近に迫る日本の選択

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2011年06月14日

  • 渡辺 浩志
大震災後の景気動向で注目されていたサプライチェーン寸断による生産の停滞は、企業努力もあり震災直後の想定に比べ前倒しで解消に向かっている。自動車の生産停止の原因ともなったマイコン工場の被災に対しては、自動車や電機業界が日々2500人規模の人員を投入するなどして、生産再開が大幅に早まった。多くの産業で10月頃までには、震災前の生産水準を取り戻すことになりそうだ。震災により日本の生産体制は脆さを露呈したが、その一方で復元力の強さも示すことになった。無論、生産水準さえ回復すれば良いわけではない。今後は有事を想定した生産体制の分散化など、新たなサプライチェーンの構築が急がれる。

ともあれ、ひとまず表面的には問題が一つ片付く。そうした中、年度後半の注目点は再び電力不足問題へと移っていくだろう。電力不足もこの夏についてはひとまず大混乱を回避できる見通しが立ってきた。節電努力や自家発電の増強、生産活動の分散、電力会社の供給能力の積み増し等の賜物だ。しかし、原発事故の収束に向けた歩みは遅く、政府や東電の対応のまずさが指摘されていることもあって、原発の安全性への不信感は増し、脱原発を叫ぶ声が日に日に強まっている。そうした中、来夏までに日本の54基全ての原発が定期点検等のため一度は停止される予定となっている。再稼動には都道府県知事などの同意が必要だが、認められないケースが多発する恐れがある。むしろ来年の方が今年より深刻な電力不足に陥る懸念が出ているのである。

今後、火力発電の増強などで電力供給を補完するにしても、燃料の輸入増、電気料金の上昇、温暖化ガスの排出クレジットの購入負担増などの経済的なコストはかさむ。これが家計や企業、国の財政などに重くのしかかり、いずれスタグフレーション、産業の空洞化、財政の悪化など、日本の競争力を低下させる種々の問題を現実のものとするだろう。日本経済には試練が間近に迫っており、原発の是非について悠長な議論をしてはいられない状況になりつつある。

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