グローバル化とワークスタイル多様化の商機

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2011年04月20日

  • 大嶽 怜
 ニューヨークのアパートでは、平日の昼間に30代、40代の人間を見かけることがある。しかし、特にこれに違和感は覚えることはない。仕事上、米国IT企業のオフィスを訪問することがよくあるが、普段は社員の半数以下しか出社していないと言う話も良く聞く。在宅勤務に代表される多様な働き方が、日本より定着しているのを実感として感じる。友人の中には、妻の転勤を機にニューヨークの自宅から欧州にある企業に勤めることになったシステムエンジニアもいる。

この友人の話では、彼のように全ての仕事を完全に在宅で行う人間はさすがに少数のようだ。しかし、彼の国では週に数日程度の在宅勤務は、数年前から特に大企業で一般的に行われているという。家族との時間を大事にする国では、優秀な人間は自分の家庭もマネジメントできるという考えもあるらしい。このような国では、多様な働き方を企業が準備することが、優秀な社員を確保する重要な手段となっている。日本企業では在宅勤務はまだ珍しい、あれば便利なオプションという程度の位置づけではないだろうか。しかし、グローバル化を進めるうえでは、海外で優秀な人材を確保する必要があり、多様な働き方を取り入れることが避けられなくなるだろう。

再び友人の話に戻って、海外から仕事をしていて不便ではないのかという問いに対して、彼は確かに不便だという。特に彼のように長期間在宅勤務を行っていると、プロジェクトのメンバー間で一体感が育ちにくく、効率が上がらないのだという。しかし、多くのコミュニケーションツールの発展により、短期間であれば、問題はあまり感じなくなっているそうだ。どこからでもアクセスできるクラウドコンピューティング、安価で高品質なウェブ会議システム、タブレット端末を使った大量の文書の容易な閲覧などがそれを助けていると言う。驚くことに、これらのほとんどが近年急成長を遂げた技術である。グローバル化による多様な働き方へのニーズの拡大を背景に、実際の利用によって生まれる不便が需要になる。その商機に多くのIT企業がしたたかに反応しているのだ。

日本でも、多様な働き方が広がってきているとは言われているが、周囲を見渡しても実感としてはまだまだ遅れていると感じる。今後、多くの企業でグローバル化が進み、それに合わせて働き方の多様化が進む。新しいワークスタイルを、今の日本のように消極的に捉えていては、世界規模の商機を見逃すのではないだろうか。IT企業を中心とした日本企業のビジネス発展の面からも、多様なワークスタイルの重要性を積極的に見つめなおすべきではなかろうか。

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