もし、自動車が家電になったとしたら何が起こるのか?

RSS

2011年01月26日

  • 土屋 秀文

1、緩やかに動き出した電気自動車の時代

三菱アイミーブ、日産リーフなど小型電気自動車(EV車)の市場投入が始まった。だが、既にプロトタイプモデル(試作車)を開発した富士重工業は収益確保の目処が立たないことからEV車市場への参入の一時凍結を表明している。なぜだろうか。確かに、EV車はガソリン車と比べてランニングコストは割安であるが、販売価格は約400万円/台と高級車並みである。レアメタル(コバルトが中心)を使用するリチウムイオン電池(※1)の価格が高いことが、その主な要因である。400万円のうちの200万円程度が電池代と推定されるが、電池製造コストの過半以上を材料費(レアメタル)が占めるといわれ量産効果も期待できない。家庭用100Vコンセントでは充電に半日間以上もかかり、フル充電でも実質走行距離は100km程度と性能面でもいまのところガソリン車に及ばないそうだ。しかも、ガソリンスタンドに相当する充電のためのインフラを新たに整備することが必要な状況である。大衆車としてEV車が普及するには、バッテリー開発の成否が鍵となるのである。高価な材料であるレアメタルを使わないで、軽量かつ高出力で長持ちのバッテリーの開発が待ち望まれているのである。だが、この時期に対する判断はメーカーによって異なるようである。

2、シンプルな構造の電気自動車が自動車業界を動かす

一方、EV車にはガソリン車にない特徴がある。内燃機関(エンジン)がないため構造が極めてシンプルなのである。部品点数も少なく、メンテナンスに手間はかからない。購入に際してアフターサービスを気にせずに済みそうである。構造が単純で、すり合せ技術の結晶といわれる内燃機関車(ガソリン車、ディーゼル車等)と異なり、EV車は自動車メーカーでなくてもモジュール化した部品を組み合わせることで、作ることができるようになる。もちろん自動車と家電では故障した際の影響が異なるため、安全性に関して一定基準を満たすことが前提である。デジタル化で家電メーカーがデジタルカメラ市場に新規参入したような現象が、自動車業界でも出てくる可能性が高いのである。

3、自動車の流通システムが変わる

EV車が本格的に普及する段階で、自動車の流通システムが大きく変化しそうである。類似するケースがある。数十年前までテレビや冷蔵庫といった家電はメーカー系列の街の電気屋さん(ナショナル、東芝、日立等のメーカーごとの専売店)で購入したものだった。昔の家電は故障することが多くメンテナンスが必要だった。信頼できる特定のメーカーの信奉者が生まれ、それぞれの世帯はひいきにする特定メーカーの家電で溢れたのだった。

しかし、現代の家電はどこのメーカー製でもほとんど故障することはなく(設計寿命の範囲内)、言葉は良くないが「売りっ放し」で済む。そして誰もが販売価格が割安でいろいろなメーカーから商品を選ぶことができる大型家電量販店で家電を購入するようになった。メンテナンスがなくなることで、家電の流通が大きく変わったのである。もはや家電は絶対的な性能ではなく、ライフスタイルに合わせて選ばれる時代となったのである。同様のことが車の世界でも起きようとしている。今のところ新車(メーカー認定中古車含む)はメーカー&ブランド別の自動車ディーラー(※2)で、中古車は街の中古車ディーラーで購入するのが普通である。しかし、EV車の時代が到来するとそうでなくなるかも知れない。自動車業界のバリューチェーン(下記図表参照)が大きく変化し、自動車業界の地図が大きく塗り変わることが予想されるのである。

図表 自動車業界のバリューチェーンイメージ

(※1)リチウムイオン電池:例えば主力のコバルト系のリチウムイオン電池の場合、材料費の相当部分をコバルトが占めていると推定される。コバルトは銅やニッケル生産の際の副産物であり、安定した供給体制にない。ほかにマンガン系、ニッケル系のリチウムイオン電池もある。

(※2)自動車ディーラー:日本や米国など主要先進国では自動車の個人向け(新車)販売はメーカー(又はブランド)別の自動車ディーラーによる販売が一般的。自動車メーカーと自動車ディーラーの資本関係は原則としてなく、コンビニのようなフランチャイズ方式で販売体制を構築している。また、日本では、自動車メーカーはディーラーと長期的な信頼関係を構築し、複数店舗を運営する大規模ディーラーが中心でサービス・アフターフォローが徹底している。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。