農業に新たなネットワーク経営を

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2010年12月20日

  • 栗田 学
我が国の農業には市場原理に照らして分かりにくいことが多い。例えば、
・作況指数が100を割っている(※1)のに米価は下落している
・国内で米が余っているのに、食糧不足の国に輸出しない
・農業の危機的状況が指摘される中、農地を返上すると補助金が支給される
・適切な規模拡大が効率アップにつながる認識はあるのにそれが進まない
などが挙げられよう。

農政に関わってきた先人の判断を批判する意味は小さい。農業を蘇らせるには、農産物の競争力を高め魅力ある産業に育てる以外にない。第一にコストである。コスト面で重要なことは、適正な規模を目指すことだ。極めて小規模の農家が効率面で世界的な競争力を持てるとは考えにくい一方、無闇に大規模化しても圧倒的な耕地の広さを持つ海外農家に対抗できない。土地が違えば気候も違い、同じ農法が通用するわけではない。したがって、それぞれの農産物に適した営農規模があるはずである。ただ、規模拡大は高齢者が多い農家にとって肉体的に重荷となる。はっきりしているのは、規模の調節だけで競争力を得るのは不可能ということだ。ならば、第二の課題として規模の不利を補って余りある価値の開発と普及が挙がる。農業の技術革新は海外でも著しく、独自の付加価値の創出には知の集積と連携とが必要である。

このように考えてくると、農業が競争力を持つには、適正な営農規模を模索しつつ、資金の拠出、農産物の育成、研究開発、資材調達、物流、販売チャネルなどの強みを持ち寄る新たなネットワーク経営が必要と指摘できる。今後、農業が競争力を持つならば
・農家どうしの協働
・企業どうしの協働
・農家と企業の協働
という3つの形態に集約されていくと予想される。この12月3日に公布された六次産業化法(※2)にはこれを後押しする効果が期待される。

我が国の農業経営において、中核に位置してきたのが農業協同組合(以下、農協)である。農協のサービスは極めて多岐に渡り、農業に関わるサービスはもちろん、地方居住者への生活インフラも提供している。ただ、農協の正組合員は主に小規模農家が中心である例が多く、また正組合員には営農規模に関係なく1人1票の議決権が与えられることから、農協の意思決定には小規模農家の意向が反映されやすい。必然的に規模拡大へのインセンティブは働きにくく、また革新的な協働形態への移行もやりづらい、といった硬直性を指摘する声がある。我が国農業の競争力強化に農協の持つ多様な知は不可欠である。だが、平成22年における農業就業者の平均年齢は65.8歳(※3)に達する。くれぐれも「農協栄えて農業滅ぶ」にならないよう、農協には我が国農業の変革に協力する新たな取り組みが待ったなしに求められている。

「平成23年度未来を切り拓く6次産業創出総合対策予算概算要求」によれば、約144億円が計上されている。従来にとらわれない協働による新たなネットワーク経営を農業に促し、競争力強化につながる成果を期待したい。

(※1)農林水産省によれば2010年産米の作況指数は98(やや不良)。
(※2)正式名称は「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」。
(※3)農林水産基本データ集による(概数値)。

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