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2010年09月09日

  • 佐藤 清一郎
成長率の低さ、夢や希望の無さ、老後の不安など、難題山積の日本。一般に、経済の成長から衰退への軌跡は、経済発展段階説が示唆するところであり、どの国も経験する道だが、何とも悩ましい。

まず、1980年以降の経済の動きで、日本の姿を客観視してみよう。世界全体の経済成長率は、1980年代約3.1%、90年代約2.9%、2000年代約3.6%、一方、日本の経済成長率は、それぞれ約4.4%、約1.5%、約0.7%となっている。結局、日本が世界平均を上回ったのは、1980代だけで、それ以降は、世界平均を大きく下回り、しかも、時間の経過とともに、平均からの乖離幅を拡大させている。結果、日本の1人当たりGDPは、どんどんランクを落とし、失業率は上昇傾向、財政赤字は拡大の一途となっている。はっきり言って、1990年以降は、まともな経済活動をしていないと言われても仕方のない状況である。

経済発展段階後半に差し掛かってからの成長軌道への返り咲きは至難の業だが、あえて前向きに考えると、ポイントは、外向きの発想にある。日本人の経済活動力は、年々、低下している一方、中国、インドなど新興国に属する国の人々の経済活動力は、日々、高まるばかりである。先行して経済成長を達成した日本人としては、この現実をうまく利用すべきである。

具体的には、日本企業による新興国への進出、また、就職先として新興国選択などが代表的である。これを可能にするには、企業が新興国進出のノウハウを身につけると同時に、個々人も新興国で従事できるスキルを身につけることだ。実現には、これまでの国内志向的考え方を抜本的に切替え、日本人とは言え、日本企業のみが就職先ではないし、日本語だけが言葉ではないという意識が重要である。また、より積極的には、ビジネスの世界では英語が一般的で、生き残りには、その習得が必要不可欠という認識も重要である。最近は、日本企業といっても、日本人と外国人を同等の立場で比較して、より仕事にメリットありと判断した方を採用するというように、必ずしも日本人優遇ではない状況が増えていることから考えても、こうした意識変革は、時代に適合している。

新興国の活力吸収は、日本人の海外進出だけでなく、外国人の日本への来訪でも可能となる。とにかく、外国人が日本の物・サービスを利用しやすい環境を整備することだ。その際、一番の基本は、英語、中国語、韓国語などを中心に外国語併記での町並みのインフラ整備、英語を話す日本人を増やすことである。これを念頭に置きながら、外国人が往来しやすい空港、港湾、鉄道などの交通インフラや外国人が安心できる生活インフラ(ショッピングセンター、娯楽施設、信頼できる教育・医療サービスなど)の整備が不可欠である。資金が限られる中で、こうした視点での、戦略的かつ集中的な投資が、極めて重要となる。

日本は、低成長という難題に対し、日本人を対象とした国内需要喚起という難しい解決方法を選択している気がする。経済行為への参加が積極的な外国人の需要に応じるという、よりやさしい解決方法をもっと積極的に利用すべきだ。そうすれば、経済構造変化とともに、日本に活力が戻ってくるだろう。

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