「役員報酬等の決定方針」の開示

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2010年06月15日

2010年3月31日の開示府令改正を受けて、上場会社は、役員報酬について詳細な開示が求められることとなる。具体的には、有価証券報告書の中で、(1)1億円以上の報酬等を受け取っている役員についての個別開示、(2)報酬等の種類別の内訳の開示、(3)「役員報酬等の決定方針」開示が義務付けられる。この中では(1)の「個別開示」が大きな話題となっているが、今回は(3)の「役員報酬等の決定方針」開示に注目したい。

「役員報酬等の決定方針」開示とは、各役員の報酬額などを決定する方針を定めている場合に、その方針の内容などの開示を求めるというものである。

そこでまず問題となるのは、『わが社は「役員報酬等の決定方針」なるものを決めていない』というケースである。法令上は、「決定方針」を定めていない以上、「定めていない」と記載することになる。ただ、各役員に実際に報酬が支払われている以上、それを決定する方針が全く存在しないということは考えにくい。文章化された社内規則のような形の「決定方針」は決めていない場合でも、各役員の働きを査定し、報酬を決めるための慣行・慣習としての基準やプロセスなどがあるのなら、それらに基づいて開示を行うべきだろう。極端な言い方をすれば、『わが社の場合、特別な基準などはなく、毎年、社長が経験と勘で決めている』というのであれば、その旨を「決定方針」として開示すべきではないだろうか。

次に、『わが社には「役員報酬等の決定方針」はあるが、「合理的に決定します」といった抽象的な規定しかない』というケースも考えられる。この場合、法令上は、その抽象的な規定を記載すれば、開示義務は果たしたといえるかもしれない。しかし、株主・投資者に対する説明責任という観点からは、十分とは言えないだろう。言い換えれば、そうした抽象的な記載を見た株主・投資者は、その会社には役員報酬等についての客観的なルールは実質的に存在せず、いわゆる「お手盛り」となっていると誤解する可能性が高いものと思われる。そうした誤解を招かないためには、抽象的な規定だけではなく、実際の基準・プロセスなどを含めた報酬体系全体を「決定方針」ととらえて、より具体的に開示することが望まれよう。

逆に、『わが社は、「役員報酬等の決定方針」として数百ページに及ぶ詳細な基準とマニュアルを作成している』というケースも、その「決定方針」を全て記載しなければならないのか、という問題が生じる。この点については、金融庁はパブリック・コメントに対して「例えば当該方針が大部である場合は具体的に分かりやすく説明することができる」と回答していることから、ある程度の要約による開示は許容されるだろうと一般には受け止められている。

株主・投資者の立場からも、規則の難解な文言や複雑な算式を大量に提示されても一読して理解することは難しい。内容を噛み砕いて、ポイントが分かるように記載されるのであれば、むしろ好ましいことと評価できるだろう。その意味で、要約による「決定方針」の開示が許容されること自体は、妥当だと考えられる。しかし、要約しすぎて、内容が曖昧、不明確になってしまっては問題だろう。

いずれにせよ、「役員報酬等の決定方針」について、ガバナンスの観点から特に重要なポイントは、個々の役員の報酬等を「誰が決めているのか」と「何によって決まるのか」ではないかと筆者は考えている。最低限、これらの点が明確になるように制度の運用がなされることを望みたい。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳