確定拠出年金普及の鍵となるマッチング拠出は?

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2010年05月31日

  • 鈴江 正明
この3月18日、企業会計基準委員会が作成した公開草案が公表された。それによれば、企業年金の積立不足の即時認識導入が、企業が恐れていた損益計算表ではなく、貸借対照表に限定されたため、確定拠出年金の導入に追い風になると思われた新会計基準は、それほどの影響を与えないとの見方が支配的になってきている。

したがって、新会計基準以外で、確定拠出年金の導入に大きな影響を与えそうなのが、今国会に提出された国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律案(年金確保支援法案)である。しかしながら、審議入りの目処すら立ってないのが実情で、今国会の会期末が6月16日と残り時間が少なくなってきており、非常に気をもむところである。

年金確保支援法案は、国民年金保険料の納付可能期間を2年から10年に延長することと、企業型確定拠出年金において加入者拠出(マッチング拠出)を可能とし所得控除の対象とすることを柱とした法案である。マッチング拠出の具体的な内容は、拠出限度額の枠内かつ企業拠出掛金を超えない範囲で、加入者の掛金拠出を認めるものである。(アメリカの場合は全くの逆で、企業拠出が加入者拠出に合わせたマッチング拠出と呼ばれている。)

このマッチング拠出が可能となることが、今後の確定拠出年金発展を大きく左右するものと思われる。企業型確定拠出年金に個人貯蓄の要素が取り入れられ、自分自身が拠出したお金を運用できるようになり、自己責任による運用がより身近に感じられるようになると思われる。言い換えると、今まで企業拠出だけであったため運用は他人事と思っていたのが、自分の懐の中からお金を出すことによって、運用を自分の事として本気で考えるような仕掛けが制度の中に組み込まれるということである。また、定期預金などの元本確保型商品に集中していた運用先も、マッチング拠出によって分散が図られる可能性が出てこよう。

かように確定拠出年金普及の鍵となるマッチング拠出が、昨年に続いて政局という激流に飲み込まれてしまうとは全く悲運としか言いようがない。公的年金を補完する企業年金の位置づけや少子高齢化などの環境変化を斟酌すれば、確定拠出年金の導入がより真剣に検討されてもおかしくない。そのためにも、法案の早期成立を望みたい。

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