デフレ脱却には比較優位の視点が重要

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2010年03月24日

  • 佐藤 清一郎
日本経済を悩ますデフレ。経済成長を実感し、かつ、それが持続的であるには、デフレは好ましくない。問題は、どうやって、デフレから抜け出すかだが、抜本解決には、比較優位の視点での産業構造転換が必要で、相応の時間を要することとなる。

デフレ発生の背景には、言うまでもなく、世界各国間の異なる価格水準がある。しかし、これだけでは、説明が不十分で、他にいくつかの要因を指摘しなければならない。第一は、開放経済の進展、第二は、先進国から新興国への技術移転の存在、そして、最後には、情報通信技術の波及である。これらが重なり合って、デフレ状況を引き起こしている。

まず、開放経済の進展について。1980年代以降、世界経済は概ね、貿易や資本移動の自由化の流れが続いている。これは、国と国の垣根を低くして、製品の移動を活発化させ、各国市場での価格競争激化をもたらしている。もし、日本国内だけで経済活動が終結するような、いわゆる閉鎖経済なら、成長が弱まったとしても、日本は、これ程のデフレを経験していないだろう。

次に、先進国から新興国への技術移転について。先進国の企業は、自社製品の価格競争力向上を目的に、より低いコストで製品を製造すべく、新興国へと進出している。この過程で、ハード、ソフト両面における様々な技術が、先進国から新興国へ移転されている。技術導入を得て製造された製品は、先進国との質的格差が縮小し、先進国市場でも十分に競合できるものとなった。結果、新興国から、価格水準の高い先進国へと安価な製品が流れ、これが先進国へのデフレ圧力となっている。90年代、日本のバブルが崩壊した後、価格破壊の主役は安価な中国製品であったことは記憶に新しい。

最後に、情報通信技術の波及について。インターネットに代表されるように、情報通信技術の普及は目覚しい。インターネットが普及したことで、何処にいても価格比較が即座に可能となり、また、通信販売で、より安価な商品を購入することができるようになった。こうした活動は、商品全体の価格戦略に大きな影響を与え、結果、デフレ圧力を助長している。

各国間で異なる価格の水準調整は、新興国の物価水準の上昇と先進国の物価水準の低下の動きの中で、人件費を含めた投資コストが、各国間で相当に近くなるまで続くと思われるので、当面、日本を含めた先進国は、デフレに悩まされ続けるであろう。しかし、この流れは、資源の稀少性と効率的資源配分という経済学の基本的な問題意識に応えている。もし、貿易が存在しない閉鎖経済なら、自国内での経済活動となるので、ほどなく、資源の制約の壁にぶつかり、資源の効率的利用が阻害される可能性が高い。しかし、貿易が可能となり、また、資本移動が自由となれば、他国からの資源調達により、自国の資源制約の限界を超えて、新たな成長、そして、効率的な資源利用への道が開かれることになるからである。

デフレは、異なる成長段階の国が混在する状況下、開放経済、技術移転、情報通信技術の進展などの効果が重なり合った結果、生じている。ここで、概ね、勢いがあるのは新興国で、苦しいのは先進国だが、全ての分野で新興国が有利というわけでもない。

デフレは、成長阻害要因としてネガティブに受けとめられがちだが、実は、価格競争力強化の過程なのである。日本は、国内需給のギャップを埋めるという発想でのデフレ阻止政策はとるべきではない。時代遅れな産業を温存し、生産性向上の阻害要因となる可能性があるからである。

取るべき道は、比較優位の観点を再検討し、財であれサービスであれ、競争力ある分野中心の経済構造再構築である。再構築にあたっては、既存の産業分類にこだわることなく柔軟に対処していくべきだ。問題は、どの分野に日本の比較優位があるかだが、これについては、(1) 米、りんごなどに典型的にみられるような安全で高品質で安全な食料、(2)これまで培ってきた環境・省エネ技術、(3)新興国では製造が難しい高付加価値商品、(4)日本人ならではのきめ細かなサービス、(5)京都や奈良に代表される欧米とは異なる日本の伝統文化、(6)日本全国に存在する温泉施設などが思い浮かぶ。勿論、この他にも、たくさんあるだろう。日本は、比較優位ある分野を中心に、成長著しいアジア市場の需要の取り込みに成功すれば、成長のダイナミズムを取り戻すとともに、デフレ脱却の道も見えてくるであろう。

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