日本航空(JAL)の経営破綻を考える

~大衆化するマーケットで生き残るには~

RSS

2010年01月26日

  • 土屋 秀文
新年の幕開けとほぼ同時に、日航(JAL)の経営破綻のニュースが世界を駆け巡った。経営が厳しいとは言われていたがまさか破綻するとは・・・・・。しかし、日本だけでなく、欧米の旧ナショナルフラッグも規制緩和をきっかけに経営破綻が相次いでいる。世界ナンバーワンの航空会社であった「パンナム」は既に存在しない。路線への参入・撤退や料金設定の自由化が進み、定価販売であった航空運賃がバラエティに富むものとなったのだ。

ほんの数十年前までは、飛行機は「特別な乗り物」だった。富裕層やビジネスエグゼクティブをお得意様としていたのだ。いまでいうと、全席ファーストクラスのような高額運賃であった。しかし、ジャンボジェット(B747)の登場で風向きが変わった。一度に400~500人の大量輸送が可能となった。誰もが飛行機を利用して気軽に旅行に行く時代となったのである。定期航空(エアライン)は、路線バスと変わらないただの移動手段となった。欧米では、上得意客であった富裕層や時間価値の高いビジネスエグゼクティブを中心に、ロンドン-ニューヨークを直行できるビジネスジェット(BizJet)で気の向くままに移動するようになった。事実、欧米ではフラクショナルオーナーシップ(※1) やFBO(※2) サービスなど富裕層等向けのBizJetサービスが発達している。

どこのエアラインでも基本的に同じ航空機や空港を使用できることなどから、基本的にはコモディティ商品を売っていることになる。このため、「価格」または「サービス」のいずれかで差異化することとならざるを得ない。だが、マスマーケットでの主流は価格訴求型のノンフリルサービス型のエアラインとなっている。1978年に米国で航空規制緩和法が制定されたことを契機に、大型機を効率的に使うためハブ&スポーク方式によるネットワーク体系が1980年代に進化した。その後、格安航空会社が小型機による直行便&多頻度運行を行うビジネスモデルを確立し、この方式の有効性は薄れた。そうした中、豪州の大手航空会社のカンタス航空はローコストエアラインに対抗するため、自ら子会社としてローコストエアラインの「ジェットスター」を新たに立ち上げ、カンタスとは違う組織として運営するなど、新しい動きも見られる。

しかし、日本の航空会社には、いまだに「エアラインは特別な乗り物」という潜在意識が根強く残っている。かつてナショナルフラッグであった日航にその意識が強かったように見える。格安航空会社(ローコストエアライン)は、「スカイマーク(SKY)」1社のみ。独立系の新規航空会社の「スターフライヤー(SFJ)」はビジネス需要特化型のエアライン、スカイネットアジア航空(SNA)、北海道国際航空(ADO)は経営再建の過程で事実上の全日本空輸(ANA)グループの協力会社となった。SKY以外は運賃水準やサービス内容もほぼ横並びの状態だ。

エアラインは地上の強敵とも戦わなくてはならない。日本には新幹線や高速バスなど廉価かつ快適で高速な代替交通機関が発達し、離島路線を除き600Km以下の路線(都市部から都市部へ3時間以内)は彼らの独壇場となっている。航空機が強みを発揮できるのは代替交通機関で3時間以上かかる1000Km以上の路線に限られるのである。

エアラインビジネスに精通する日航が、このような外部環境の変化に気が付かないとは考えにくいが、経営破綻したことから、十分な対応が行われていなかったのは事実であろう。日航の再建には、ニューマネーを調達し、普通の民間会社として主体的に路線展開や機材選定をし、採算ベースでマーケティング戦略を構築することが必要なのはいうまでもない。独立採算の民間事業会社としてマスマーケットでサバイバルするには、日航マンの意識改革が欠かせない。

(※1) フラクショナルオーナーシップ:ビジネスジェット機の共同所有権のこと。ビジネスジェット機の利用機会が少ないオーナーにとっては、未稼働時間など無駄を減らすことで、1機をまるごと所有するよりも割安な価格を実現している。
(※2)FBO:FixedBaseOperatorの略。ビジネスジェット機の利用者が必要とするサービスを提供。主なサービスとして、(1)給油、(2)専用ターミナル、(3)専用ラウンジ、(4)専用格納庫、(5)航空機の整備&牽引、(6)ホテル、レンタカー手配などコンシェルジェサービス、(7)機内および機体の清掃、(8)気象情報の提供、(9)航空機との無線連絡などが挙げられる。

 

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。