適正労働分配率からみた雇用調整圧力

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2009年10月06日

  • 渡辺 浩志
景気は回復しつつあるものの、その水準は依然として低い。そのため、好況期に積み上げられた生産設備や雇用者数など、ストック面の調整圧力は高い。ここでは、今後の景気回復も織り込みながら、雇用者数の調整圧力について検討する。

企業の雇用過不足感は生産量と雇用者数の関係でみた労働生産性よりも、賃金も含めた労働分配率と密接に連動している。そこで日銀短観の雇用判断DIをもとに、雇用過剰感のない労働分配率(これを適正労働分配率とする)を推計すると、およそ65%となる。09年4-6月期時点の労働分配率は71%程度であり、適正水準を6ポイント上回っている。労働分配率の適正水準からの上振れ分のうち、今後の景気回復によって調整しきれない部分が人件費の調整圧力になると考えられる。当社の経済予測をもとに、景気回復による労働分配率の低下度合いを試算すると、今後2年かけて1ポイント強の改善しか見込めず、5ポイント分が人件費の調整に委ねられる可能性がある。これは人件費約2割の削減に相当する。

ただし、過去を振り返ってみると労働分配率は必ずしも適正水準まで低下してきたわけではない。不況が短期で終了するとみれば企業には将来の景気回復に備え雇用を保蔵して人的資本を確保するインセンティブがあるためだ。企業に雇用保蔵の体力が十分にあり、雇用保蔵のコストがインセンティブを下回る限り、企業は労働分配率の上振れを甘受する。しかし、足下の企業収益は製造業が2四半期連続の営業赤字となっているように、非常に低水準である。また、景気回復までに時間がかかると見通せば、企業は雇用保蔵コストの累増を避け、本格的な人件費調整に踏み込む可能性があるだろう。

人件費の調整は、労働時間、雇用者数、賃金の調整によってなされるが、労働時間は残業の削減や休業の増加で限界近くまで削減されているとみられ、今後は雇用者数と賃金を中心とした調整になると見られる。この際、過去の平均的な傾向では雇用と賃金の調整比率は1:1.9程度であるため、約2割の人件費削減が、雇用者数7.0%の削減と賃金13.4%の削減に按分される。これは雇用者数380万人の削減に相当する。さらに、02年以降の好況期に賃金はほとんど上昇せず、雇用者数を中心に人件費は増加したことなどから、雇用過剰感解消のための調整は過去に比べてより雇用者数に偏る可能性がある。

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