事業承継税制は使えるものになるのか

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2009年03月16日

現在、国会で審議されている平成21年度税制改正法案には、いわゆる事業承継税制の一つとして非上場株式等に対する相続税の納税猶予制度が盛り込まれている。この制度は、非上場株式等の相続税の軽減措置について、現行の10%減額から80%納税猶予に拡充するというものである。

2006年10月に、中小企業庁が実施した中小企業経営者アンケート(回答数:2369)によると、経営者の有する事業用資産(経営している会社の株式を含む)は、平均で個人財産全体の約65.7%(株式会社に限ると68.1%)、個人財産に占める事業用資産の比率が6割を超えている者が49.9%となっている。

また、相続税に関して、株式等事業用資産の売却または物納を考えている企業が、全体の18.7%(株式会社の21.0%)存在するとしている。

さらに、予想される相続税負担の額が、金融資産総額を上回っている経営者が19%(株式会社の25.9%)存在するとし、事業用資産の集中的承継に直接的な影響が生じるケースが全体の2割程度は存在することになるとしている。

かような状況の中で、わが国の事業承継税制は限定的にしか優遇措置等が設けられていないといった問題があったため、深刻化する事業承継問題に対応すべく、相続税の納税猶予制度の創設が盛り込まれたわけである。

しかし、創設される制度の中身を見てみると問題が全くないわけではない。
例えば、相続税の納税猶予の対象となるのは、「相続開始前から既に保有していた議決権株式等を含めて、その中小企業者の発行済議決権株式等の総数等の3分の2(66%)に達するまでの部分」(太字筆者)とされる。

したがって、経営を承継する子(相続人)が、相続時に会社の株式を49%保有していた場合には、その相続人が残りの51%の株式を親(被相続人)から相続したとしても、この51%全部について納税猶予が受けられるわけではなく、17%(66%-49%)しか納税猶予を受けられないことになる。

しかもこの制度は、相続税が免除されるわけではなく、あくまでも納税が「猶予」されるのが原則とされ、免除される場面は相続人が死亡する場合等に限定されている。

また、民法上の遺留分制度による制約への対応等を内容とした「中小企業における経営の承継の円滑化法」等の関連制度も含め、制度全体が複雑でわかりにくい面もある。

このように、必ずしも使い勝手が良いとはいえないと思われる相続税の納税猶予制度が事業承継問題の対処としてどの程度利用されるのか、制度の成立後の適用状況等に注目していきたいところである。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 鳥毛 拓馬