日本が、今やるべきこと

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2009年02月09日

  • 佐藤 清一郎

日本は今、いかに行動すべきか。その答えは、1980年代後半の日本を思い出せば、自ずと見えてくる。やるべきことは、増価した円を利用した積極的な対外直接投資であり、注意すべきは、内需拡大を過度に意識した経済行動である。

まず、対外直接投資の積極化について。日本は、1985年のプラザ合意以降の急激な円高で、製造業を中心に大幅な収益悪化に見舞われた。財政、金融とも緩和政策がとられたが、それだけでは不十分で、企業は、対外直接投資を拡大することを余儀なくされた。主な目的は、米国との貿易摩擦回避やコスト削減である。特に、コスト削減目的の投資は、アジア地域が多く、この結果、アジア地域には、日本の製造業の生産ネットワークが築かれることになる。このことは、アジア経済の発展に寄与するとともに、2002年以降の景気拡大期にあっては、生産活動に大いに貢献することになった。最初の動機は強制されたものであれ、海外直接投資の累積は、日本にとって重要な財産となっている。この事実を再認識するべきだ。今は世界的に需要が減退しているが、今後の景気回復を見据えて、アジア地域などでの生産基地拡充に力を注ぐべきだ。政府には、現地進出企業へのサポートや経済連携協定の締結に更なるエネルギーを費やしてほしい。

次に、内需拡大関係について。円高で輸出企業が打撃を受けると、いつもでるのが内需拡大の話しである。1980年代当時も、この話しがでた。具体的には、いわゆる「前川レポート」がだされ、経常収支不均衡是正を目標に、住宅対策及び都市再開発事業の推進、所得税減税による消費拡大、地方の社会資本整備推進などが提案された。これら施策は一定の成果をもたらしたが、副産物として、高級ブランド品や高級絵画の輸入、国内のリゾート開発などを生むことになった。ご承知のように、これらは、あまり良い結果をもたらしていない。今回も、輸出構造見直しや景気対策という議論の中で、内需拡大の話がよくでてくるが、くれぐれも、1980年代のような失敗を繰り返さないことを願う。内需拡大というお題目に惑わされずに、必要か不要かを、きちんと見分けるべきだ。たとえば、高齢化社会に対応したインフラ整備や農業振興策関連投資などは必要だが、それ以外、たとえば、観光立国を目指した投資などに関しては、観光資源が世界レベルから乖離していることを考えると、慎重に検討していくべきである。

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