サブプライム・ショックと国内社債発行

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2007年10月17日

  • 奥原 健夫
国内の社債発行を見ると、2007年は増加傾向が顕著となっているが、8月はサブプライム・ショックの影響で社債発行を見合わせる動きが強まり、発行額が大幅に減少した。しかし、9月は8月の大幅減の反動もあり、7月の水準近くまで回復した。

07年下期の発行状況を業種別で見ると、地銀や製造業が拡大している。金融機関貸出残高の前年比はプラス幅が鈍化している中で、地銀は拡大基調を維持しており、コストを意識しながら発行を増やしているとみられる。また、製造業は競争激化により資源の選択と集中の動きを強めているが、大型の設備投資案件が多い上に買収に必要な資金を社債で調達する企業もあり、発行額が大規模となっている。一方、消費者金融は貸し出しの厳格化やグレー・ゾーン金利の廃止などにより貸し出しの減少と財務の悪化に直面し、発行減となっている。

社債の発行は、足元の資金調達コストと今後の見通しが発行の増減に大きく影響する。7月には発行額が1兆円を上回るなど発行が急増していたが、6月に国内10年債利回りが2%付近になるなど大幅な金利上昇となり、金利の先高感から企業が資金調達を短期から長期へシフトする動きを強めたことも影響を与えているとみられる。

一方、8月になると欧米では、資産担保証券の大幅な劣化により社債スプレッド(※1)が急激かつ大幅な拡大となり、クレジット・コストの上昇や投資家の選好低下で社債発行を見合わせる企業が多かった。しかし、国内の社債スプレッドは欧米市場同様に拡大したものの、その拡大幅は相対的に小さかった。また、国債利回りは質への逃避と米国の利下げ期待から大幅な金利低下となった。この結果、クレジット・コストは上昇したものの、基準金利である国債利回りが大幅低下となり、むしろ資金調達コストは低下する状況となった。欧米では国債利回りが大幅低下となったものの、クレジット・スプレッドが大幅拡大した結果、資金調達コストは上昇することとなったが、この結果、ユーロ円市場など相対的にコストの低い円建てでの大規模な資金調達が活発化した。

今後は、基準金利となる国債利回りの水準だけでなく、クレジット・スプレッドの水準を考慮して発行時期を選択することになる。米国は追加利下げが意識されるなど金融政策要因からは国債利回りの先高感は限定的で、サブプライム問題がまた再燃するリスクはあるものの、国内の企業財務は良好であることから、社債スプレッドの上昇は限定的であるとみられる。従って良好な資金調達コストに加え、欧米の信用収縮の緩和が社債の選好を高めると想定され、下期は上期を上回るペースでの発行が続くと予想される。

(※1)社債スプレッドは、社債の利回りから国債利回りを引いたもので、格付けの低い企業ほどスプレッド幅が大きい。クレジット・スプレッドは社債スプレッドとほぼ同義。

国内社債発行額

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