参院選後のカジノ合法化の行方は

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2007年07月27日

  • 加藤 三朋
「参院選後の重要な政策課題の一つはカジノ合法化である」。一般国民にはピンとこないが、これは内外のエンターテイメント・観光業者、カジノ誘致に熱心な自治体等では想定内である。布石は今年2月の「来年の通常国会にカジノ法案を提出したい」とする自民党カジノ・エンターテイメント小委員会委員長の野田聖子議員の発言である。選挙シーズンが終われば合法化は時間の問題というのが多くの利害関係者に一致する見方であろう。

そもそも何故、今、カジノ合法化なのか。世界の動向をみるとカジノはもはや単なるギャンブルの範疇では捉えられていない。カジノは魅力的な娯楽性を有する重要な観光資源であるとの共通認識が生まれ、それを軸として生み出される経済的な果実を積極的に取り込もうとする動きが世界各地で活発化している。

カジノの位置づけが世界的に変化してきた背景としてラスベガスの成功は無視できない。かつては組織悪(マフィア)が介在する時代もあったが、80年代以降は大規模カジノホテルに国際会議場、ショッピングセンター、テーマパーク等を併設する総合エンターテイメントの拠点へとビジネスモデルの転換が進み、一方では厳格な規制により組織悪・不正の徹底的な排除、社会的悪影響の軽減にも成果を収めている。健全かつ安全な環境下で誰もが多様な娯楽を楽しめるというのがラスベガスに対する今日の一般的な評価であろう。

現在、ラスベガスには年間3,700万人超(2004年)の観光客が訪れ、雇用、税収面で多大な経済効果が生み出されている。世界が目指す一つの方向性は簡単にいえばこのようなラスベガス型の複合的観光資源の開発である。カジノの新たな可能性が認識されるに従い、特に80年代後半以降からやはりラスベガスの規制環境を参考としながらカジノ合法化が世界的に進展することになるが、そのダイナミズムが最も顕著に現れているのはアジア経済圏である。マカオ、シンガポールではともにラスベガスの有力オペレーターをはじめとする外資の参入規制の緩和をテコに総額1兆円を超えるような大規模カジノリゾート施設の開発が進展している。そこでは今後の成功を半ば示唆するかのようにカジノ・エンターテイメント、観光関連の世界的ブランドが大挙して参入しているのが実態である。

こうした中、日本は先進国では唯一ともいえるカジノ非合法の国となっている。マカオ、シンガポールを始めカジノ合法化をテコに新たな成長戦略を模索し始めている各国に比較すると出遅れ感は否めない。カジノ合法化の遅れは観光産業の国際競争力を相対的に弱める等、日本の国益を損ないかねない要因であるとの見方も可能であろう。

アジア域内での観光資源競争に対抗する切り札としてのカジノの重要性は既に日本政府も認識している。上で述べてきたようなカジノを巡る世界情勢の大きな変化を充分に考慮した上で、昨年6月には自民党カジノ・エンターテイメント小委員会が来るべきカジノ法の基本的な骨格になるとみられる「わが国におけるカジノ・エンターテイメント導入に向けての基本方針」を発表している。来年初頭の通常国会でカジノ合法化が果たして本当に実現するのかが注目されるところである。

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