過去最高を更新する株主還元
2007年11月15日
今年度の東証1部上場企業(※1)の予想配当総額は、前年度比15%増の4.6兆円と、過去最高を更新する見通しである(東洋経済予想)。また、東証によれば、東証上場企業の自社株買い実績(2006年4~10月)も前年同期を12%上回る2.8兆円と、最高記録を更新している。
背景は好調な業績と買収防衛のための安定株主確保
東証1部上場企業(※2)の増配企業の割合は、減配に転じた企業が23%と最多であった01年度を底に増加し、04年度、05年度では53~55%の企業が増配を行った。06年度の12月時点の予想は、増配:35%、据え置き:57%と平均的であるが、1)減配予想は7%台と低いこと、2)無配予想企業数は減少していることより、増配を行った企業が高配当のまま据え置いていると推察できる。
では、配当の原資である利益はどうであろうか。05年度の経常利益は05年12月時点の予想で4%増益(前期比)であったが、最終的には13%増益に着地し、増配のインセンティブになった。06年度の予想は現在7%増益にとどまるが、上期実績が14%増益(前年同期比)と二ケタ増益となっており、通期予想に上方修正の可能性が残る。一般に、増配は経営者の将来の収益に対する強気の見通しを示すと考えられており、本決算に向けて業績の上方修正が進めば増配企業の増加も期待できる。
一方、TOPIXの配当性向はここ数年20~25%程度で推移しており、同期間のS&P500:30~35%、FT100:40~60%を下回る。株主資本に対する利回りの意味をもつDOEIIIで比較すると、TOPIX:1.8%、S&P500:5.2%、FT100:6.4%と、日本の株主還元比率はいまだ米英に比べ見劣りする。
また、同じ株主還元に位置付けられるものに自社株買いがある。かつては、経営者が“自社の株価が割安である”というアナウンスメント効果を狙って自社株買いを実施したケースが多かった。しかし、株価が高値を更新しているのに自社株買いに積極的な企業が多い理由は何だろう。これには次の3点が考えられる。1)自社株買いにより株主資本を減少させ、ROEなどの指標を改善できる、2)取得した自社株をストックオプションとして付与し、人件費の業績連動性を高められる、3)M&Aを含む資本・組織構成の再編などにも活用できる。現時点では、買い入れた自社株を実際に消却する企業は少数派で、自社株保有の形で経営の自由度の確保を狙う企業が多いように見受けられる。
今後、07年5月解禁の三角合併を視野にいれたM&Aなどが活発化することが予想される中、企業が買収防衛の目的で安定株主を確保するために、株主還元を強化することが期待できる。
(※1)(※2)対象は、東証1部上場企業のうち、3月決算、かつ金融を除く国内企業。
(※3)DOE:株主資本配当率(Dividend on equity ratio)の略。
「年間配当総額÷株主資本」で算出される。
(注)06年度の予想値およびDOEは、06年12月25日時点のもの。
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