アジアの潮流 ~積み上がる外貨準備~

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2006年09月15日

  • 佐藤 清一郎

アジア地域の外貨準備高は2兆ドルを超え増加中

アジア地域では、猛烈な勢いで域外(特に米国)への輸出を伸ばす中、急激な外貨準備高の積み上がりが生じている。この動きが特に顕著なのは、中国と日本で ある。最近の数値を見ると、外貨準備高は、2000年末比較で、中国が約6倍、日本は約2.5倍に膨れ上がっている(※1)。膨大な米国の経常収支赤字の裏返しとはいえ、その拡大スピード、規模には驚かされる。05年 末、アジア域内に積み上がった外貨は2兆ドルを超えた(※2)。中国、インドなどの内需に期 待する向きもあるが、当面は、アジア地域の域外需要依存体質は変わらないとみられ、結果、外貨準備高積み上がりの流れも続きそうだ。

外貨準備高のほとんどは、米国のファイナンスへ

蓄積された外貨のほとんどは、アジア域内には還流せず、米国財務省証券購入など、米国の赤字ファイナンスに使われている。米国向け輸出に大きく依存した構 造にあるアジアにとって、米国経済が健全であることは極めて重要なので、米国傾斜のファイナンスは仕方ない面もある。しかしこうした動きは、アジア域内に おける資金供給の安定性確保を含む資本市場整備や米国一極集中に伴うリスク拡大の観点では好ましくない。そもそも、なぜ、獲得外貨がアジア地域に還流せ ず、米国のファイナンスに向かってしまうのか。その根本原因は、多くのアジアの国が、外資に大きく依存した経済構造であり、自国内で自立できる産業インフ ラを持っていないことにある。これでは、外国からの投資や短期的な資金の動きが、自国の経済・金融に大きく影響するため、安定的な資金流入は難しい。

外貨準備高の域内還流施策

積み上がった外貨をアジア域内に還流させるにはどうすればよいか。第一には、経済政策への信頼確立が重要である。このためには、低インフレ、健全な財政構 造を目指した政策運営、そして、信頼性があり、かつ、タイムリーな形での経済情勢や統計データの公表等が必要であろう。第二には、各国中央銀行が行ってい る債券市場育成の取り組みを、更に拡大させることである。市場に流動性を持たせるため、現状、偏った形になっている発行体や投資家を多様化すべきである。 発行体に関しては、より多くの企業で社債発行が可能となるように、会計基準の整備、企業の情報公開制度の確立等が必要である。投資家を呼び込むことに関し ては、税制や関連法規の整備を行うこと、法令順守の認識の低さを早急に改めること、投資家が適切な投資判断ができるように、信頼できる格付け機関を育成す ること等が必要である。

(※1)中国の外貨準備高は、9,411億ドル(06年6月末)、日本の外貨準備 高は、8,719億ドル(06年7月末)。

(※2)世界全体の外貨準備高の半分程度に相当。

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