「小さな政府」・「大きなNPO」

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2006年01月20日

  • 山中 真樹
先般の総選挙により与党が歴史的大勝を収めたことから、所謂「小さな政府」路線が今後とも継続、推進されることとなった。もとより、「小さな政府」の定義は多様であり、各論者の主張も必ずしも一致していない。現下の危機的な財政状況に鑑みれば、国家の資金繰りの見地からして「小さな政府」以外の選択肢は事実上存在しないともいえる。

ただ政治哲学的には、「小さな政府か大きな政府か」の論点はそうした資金繰りの問題に重きがあるのではなく、国家と個人の自由との関係如何、つまり国家は個人の自由にどこまで干渉すべきなのかという点こそが中核的な課題である。このことをきちんと認識し議論を整理しておかないと、統制経済の方が効率的だとか、しまいには独裁制が最も効率的だといった方向に議論が流れていってしまいかねない。

とりわけ議論を複雑にしているのが、わが国では「官民」の区別と「公私」の区別とが事実上一体化してしまっていることである。「官から民へ」との主張がともすれば、『「公」の縮小、「私」の拡大』ととられてしまう。結果、議論があらぬ方向に進んでいくという状況を招来しているようである。つまり「小さな政府(=官)」が「小さな公」になってしまってよいのかといえばそうでなかろう。ところがわが国では「公」は「官」が担うという前提であるから議論が行き詰まってしまうのである。

従って、財政面からみて「小さな政府」しか事実上選択肢がない以上、「官」を縮小させつつ「公」を縮小させない仕組み、即ち「民」が「公」を担う仕組みを如何に構築していくかが重要となってくる。

こうした問題意識にたち、諸制度を見渡したとき、中心的な役割を担うことが期待されるのが、NPO(特定非営利活動法人)である。ところが、1998年のNPO法施行からかなりの年月が過ぎ、数多くのNPO法人が設立されているにもかかわらず国民一般のNPOに対する認識は十分とはいえない。

税制面にネックがあるとの指摘もあるが、根本は「民(=市民)」が「公」を担うのが市民社会の基本であるとの認識の共有と、その認識に基づく市民の「公」への参加である。「小さな政府」が望ましいにせよ、「公なき社会」を望んでいるのではなかろう。「小さな政府」社会におけるNPOの活性化と活動範囲の拡大(=「大きなNPO」)を強く望む次第である。

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