人口減少への懸念は新興国が和らげる?

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2005年05月31日

  • 尾野 功一

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の人口は2006年にピークを迎える。このことが、労働力の減少を通じて日本経済を縮小させることへの懸念が、最近になって強まっている。

世界的にみて興味深いのは、地域ごとに将来人口の推移が色分けされる点である。国際連合の(5年毎の)人口推計によると、先進国の中で日本、イタリア、ドイツは生産年齢(15-64歳) 人口が既に減少局面に入っており、多くの大陸欧州国も2010年にピークを迎える。新興国でも、日本に近く所得水準が先進国並みのアジアNIEsは、韓国とシンガポールが2015年、香港が2020年に、また中国でも2015年にピークを迎える。さらに、大陸欧州に近い東欧地域では、ハンガリーとロシアは既にピークを過ぎ、チェコは2005年、ポーランド、スロバキアも2010年にピークを迎える。必ずしもインド、マレーシア、フィリピンのように、生産年齢人口が明確に増加する新興国ばかりではない。

このように、今後の生産年齢人口については、東アジア・大陸欧州・ロシアに代表される減少地域と、英米・オセアニア・北欧などに代表される増加・安定地域に区分けされる。先進国間でみると、この区分けは、90年代前半以降における経済競争力のおおまかな評価区分(北米、英国、北欧などが有利)と似通っている。過去10年強成立したこの競争力の構図はまだ記憶に新しく、これを将来人口の推移と重ねると、日本の将来懸念は現実的なものとなってしまう。また、この考えを新興国に適用すると、生産年齢人口が増加するインドやブラジルは、中国やロシアよりも将来有望との見方が導かれる。

だが、将来は何ら保証されておらず、これらの見方は説得力が大きいものではない。過去の長期的推移はこの懸念を支持しないからである。1960年から2000年までの生産年齢人口増加率と実質経済成長率との関係を、主要先進国を対象に比較すると、実質経済成長で他を圧倒したのが、経済規模がおよそ6.5倍弱となったアイルランドと日本である。しかし、両国の生産年齢人口増加率は特に高くはなく、逆に生産年齢人口増加率が日本よりも明らかに高いオーストラリア、カナダ、ニュージーランドなどは、経済成長率は日本よりもはるかに低水準にとどまっている。

経済成長は労働力のみでは決まらず、先進国・新興国を問わず、人口減少のみを過度に懸念するのは適切ではない。日本の人口減少に懸念を抱くときは、それを中和するべく成長期待が高くても生産年齢人口は増加しない新興国の存在を思い出すべきかもしれない。
 

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