有給休暇、従業員の未取得分の費用計上義務付けで、消化を促進?

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2017年05月24日

  • 吉井 一洋

政府は、現在、日本経済再生に向けた最大のチャレンジとして、働き方改革を推進している。働き方改革こそが労働生産性を改善するための最善の手段であり、個人消費を押しあげ、より多くの人が心豊かな家庭を持てるとしている。
わが国の労働制度と働き方の課題として、長時間労働の改善を求めるとともに有給休暇の取得を推進している。2020年には、有給休暇の取得率が70%となることを目指している。労働基準法では、6か月以上の継続勤務で、全労働日の8割以上出勤した場合は、10日間の年次有給休暇を与えることが義務付けられているが、2017年の通常国会提出中の改正法案では、さらに、10日以上の年次有給休暇が付与される従業員に対して、うち5日について毎年時季を指定して与えることが義務付けられることとされている(※1)

この有給休暇の取得推進の有効な手段の一つとして、かねて「有給休暇引当金」の導入が挙げられていた。有給休暇引当金は、IFRS(国際会計基準)や米国会計基準ではすでに導入されている。IFRSでは、「企業は、累積型有給休暇の予想コストを、報告期間の末日現在で累積されている未使用の権利の結果により企業が支払うと見込まれる追加金額として、測定しなければならない」(※2)こととしている。有給休暇のうち未取得の部分を繰り越すことができる場合、期末の時点で従業員が未取得の部分があれば、当該未取得(未使用)の部分を引当金として負債計上するとともに、費用(又は原価)計上しなければならない。
引当処理の方法としては、例えば、先入先出法的な処理と後入先出法的な処理がある。ごく大ざっぱな例を示すと、ある企業が当期に20日分有給休暇を付与し、従業員が当期中に平均して15日取得して5日未取得の場合は、先入先出法だと、この5日分は翌期に取得されるものとして5日分の引当金を計上する。平均日給2万円、1万人の従業員がいた場合は、10億円の引当金・費用計上となる。一方、後入先出法だと、当期に付与された範囲内で取得する限りは、追加金額は発生しない。翌期に繰り越された有給休暇のうち、翌期に付与される有給休暇を超えて取得が見込まれる日数分を追加金額として引当計上する。翌期の付与数が20日で、翌期の見込み取得日数が17日だった場合は追加金額は生じないが、22日の場合は、2日分を翌期繰越しの5日分から取得されるものとして引当金・費用計上する。同じ日給・従業員数を想定すると、4億円の引当金計上となる。どちらの方法によるかによって計上額は異なるが、未取得分が残ると費用計上発生の可能性がある点は異ならない。

ちなみに、わが国でIFRSを導入している企業は有給休暇引当金に該当する負債・費用を計上する必要がある。ただし、有給休暇等の科目を用いて計上・注記をしている企業は半分弱の模様である。

かつては、この有給休暇引当金については、わが国の雇用慣行に合わないといった批判があった。しかし、有給休暇取得促進に向けた職場環境の見直しが推進されている現状を考えれば、取得促進のための手段として、わが国の会計基準においても導入に向けた検討を開始してもよい時期に来ているのかもしれない。

(※1)ただし、5日以上の有給休暇を計画的に付与している場合などを除く。
(※2)IAS第19号「従業員給付」第16項 (出所:IFRS Foundation)

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