ディープラーニングはデータ分析の一つにすぎない

~人工知能を活用した新しい価値の創造とは~

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2016年11月15日

1950年代、1980年代に続き、昨今、人工知能(AI)に3度目の世界的なブームが訪れているとされる(※1)。各国・企業で人工知能に関する研究開発への投資が活発化しており、日本も2016年度当初予算に文部科学省、経済産業省、総務省の3省で100億円以上が盛り込まれた(※2)ほか、去る8月に閣議決定された第2次補正予算においても、経済産業省の「人工知能に関するグローバル研究拠点整備事業」(※3)に195億円が計上された。このブームの火付け役となったのは「ディープラーニング」の出現であり、一般に知られるようになったのは、2016年にディープラーニングを用いたGoogleの「アルファ碁」が世界でも屈指の囲碁の達人に勝利したことであろう。

ディープラーニングとは、大量のデータから自動的に「特徴量」を計算することを可能にした技術である。特徴量とは、そのデータの根幹を成す概念のことで、簡単に言えば、入力されたデータのパターンのようなものだ。パターンが分かれば、新しいデータの入力に対して「予測」ができるようになる。例えば、大量の画像から猫のデータのパターンを学習しておけば、新しい猫の画像が入力されたときに、猫と回答できる。これまでの人工知能は、この特徴量を人間が設定する必要があったが、ディープラーニングによって、自動的に特徴量を計算できるようになった点が画期的とされている。

ただ、ディープラーニングが実現していることを冷静にみてみると、これは統計における主成分分析とほぼ同様のことである。つまり、ディープラーニングはデータ分析の手法の一つと言え、直ちに人間に代替するというわけでは無論ない。しかし、ディープラーニングによるアルファ碁が人間に勝利したとき、これまでにない新しい打ち手を放ったという。この新しい打ち手こそが、人工知能を活用してイノベーションを実現するということの核心であると考えられる。

現在、ディープラーニングは、画像、音声、言語など、特定の分野のデータを対象とした分析が実用化されているものの、そうして得られた予測を活用しても、その分野に限定した改善・改良にとどまる可能性がある。一方で人間は、それぞれの分野で学習した予測を組み合わせることで、全体の「計画」を策定することができる(※4)。そして、これまでにない計画に基づいて活動することで、新しい価値を創造することができる。人間の五感や思考のように、人工知能も様々なセンサーなどから取得した複数の分野のビッグデータに対応して学習を積み重ねることで、それまで人間には発見できなかった新しい計画を策定できる可能性がある。これこそ、人工知能による新しい価値の創造、つまり本質的なイノベーションを実現するということであろう。

そのように人工知能が活用できるようになるのはいつ頃だろうか。総務省では、ビッグデータに基づくAIによって2020年代に「センサデータによる部分最適化」が、2030年代に「社会全体の最適化」が、可能となるロードマップを描いている(※5)。既に、“TensorFlow”、“Chainer”など、ディープラーニングを活用した様々な分析フレームワークが公開されており、情報を公開・共有することで外部の多くの人によって急速に開発が進む、オープンイノベーションが世界で促進されている。人工知能を活用した新しい価値創造の実現は、意外に早いかもしれない。

(※1)松尾豊『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』(2015年、KADOKAWA)
(※2)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 人工知能技術戦略会議(第1回) 参考資料「平成28年度 3省の人工知能(AI)研究開発に関する主な予算について」(2016年4月18日)
(※3)経済産業省「平成28年度 第2次補正予算案の概要(PR資料)」(2016年8月)
(※4)例えば、人間は事象Aと事象Bの特徴や本質に気付いたとき、それらの特徴を利用して事象Cを起こすことができるのではないかと発想することができる。
(※5)総務省「『新たな情報通信技術戦略の在り方』(平成26年諮問第22号)に関する情報通信審議会からの第2次中間答申」 「別紙3 2次中間答申 本文(第4章(『次世代人工知能推進戦略』))」(2016年7月7日)

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