地方創生における情報の活用

結婚・出産・子育て支援を例に考える

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2015年10月15日

  • コンサルティング第一部 主任コンサルタント 岩田 豊一郎

「地方創生における情報の活用」との見出しを付けたが、オープンデータの活用や、ICTについて話すわけではない。現在、全国の自治体では、「まち・ひと・しごと創生法」に基づき、地方創生に向けた総合戦略の策定が進められている。筆者も策定のお手伝いをしており、その中で気づいた情報の重要性について、総合戦略における国の基本目標の一つである「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」の分野(以下、「結婚・出産・子育て」)を例に話してみたい。

多くの自治体では、「結婚・出産・子育て」に関する多様な支援制度が設けられているが、各種の住民アンケートをみると、「支援制度を知らない」、「適切な支援の組合せが提供されていない」などの意見が多く、住民の満足度は必ずしも高くない状況にある。特に、支援を必要とする住民ほど、「支援制度を知る機会がない」、「相談する機会が不足」、「ニーズと支援がマッチしていない」などの意見が聞かれる。すなわち、支援に関する情報が必要な方に、必要な時に、適切な組み合わせで、提供されていないわけである。総合戦略において、多くの自治体が「結婚・出産・子育て」支援制度の充実を進めているが、支援情報の最適な提供が出来なければ効果が限定される。支援情報の提供について、組織の見直しも含めて、今一度考え直す必要があると考えられる。

次に考えてみたいのは、過度な情報の問題である。若い世代に向けたアンケートを見ていると、結婚・出産・子育ての意向は強いものの、経済的な不安に加え、出産・子育てに対する不安、漠然とした将来への不安などを理由に、意向の実現は難しいとの回答を多く見かける。大学進学率が約5割に達する現状で、晩婚化は進み、子育て費用の高騰や、各種の問題の情報は氾濫する中、出産・子育てを直接学ぶ機会は減っている。「昔はどうだったか?」とシニア世代の意見を聞くと、「当時は、不安の前に、結婚、出産、子育てが当然と思われていた。」との声が多く聞かれた。このことから、多くの情報があふれる中、現在の若い世代は過度に不安を抱えている可能性が考えられる。しかし、情報の増加を止めることは非現実的であることを踏まえると、結婚・出産・子育てのステージに合った適切な支援制度や出産適齢期などの科学的な情報を知る機会に加え、子育てなどを直に学ぶ機会、同じ立場の者同士が交流し情報を交換する機会などを男女問わず積極的に提供して行くことが必要である。結婚・出産・子育ての意向を持つ住民に、適正な情報の提供を早期かつ積極的に進めることで、不安を少しでも減らすことが重要である。

最後に、情報の共有について考える。地域では、多様なNPOなどの諸団体が結婚・出産・子育て支援を行っている。こうした団体は、より狭い領域で活動しているため、行政区単位では対応しきれないきめ細やかなニーズに応える一方で、諸団体間や行政との間の情報共有は限定的である。また、まちづくりや産業関連などの異分野の団体との交流で新たな動きが始まるケースも見受けられる。結婚・出産・子育てはまちづくりや雇用などとも密接に絡むテーマであり、総合的な対応が地方創生の要と言っても過言ではない。人口が減少し、財政制約も厳しくなる中、公共におけるサービスや各種支援の選択と集中は避けられない。選択と集中を補完する形で、住民との協働による共生社会の構築が地方自治においては必須であり、共生社会が実現できた地域ほど、住みやすく、子育てしやすいまちとして多くの人を引き付けることになるだろう。そのためにも、住民と積極的に分野を問わず情報を共有し、一緒に考え、一緒に試行錯誤する仕組みを構築した自治体が地方創生に成功するのではないか。

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コンサルティング第一部

主任コンサルタント 岩田 豊一郎