新たなステージを迎える宇宙開発

開発から地上での積極活用へ

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2015年03月19日

  • 引頭 麻実

今年度(2014年度)の種子島宇宙センターは大忙しの1年だ。年間で5回にも上る衛星の打ち上げが計画されている。通常では1年間に2~3回程度が衛星打ち上げのペース。今年度は通常の約2倍の仕事量をこなしている計算となる。

すでに4回目の打ち上げを2月1日に成功させた。打ち上げられたのは、情報収集衛星レーダ予備機を搭載したH-ⅡAロケット27号機。これでH-ⅡAロケットは2005年2月の運輸多目的衛星新1号「ひまわり6号」以降、連続21回の打ち上げ成功となり、成功率は96.3%となっている。次の打ち上げは、情報収集衛星光学5号機を搭載したH-ⅡAロケット28号機で、3月26日に予定されている。

今年1月、安倍総理を本部長とする宇宙開発戦略本部は2015年度からの10年間における宇宙開発戦略の基本方針をまとめた「宇宙基本計画」を発表した。これによると今後10年間で最大45基の衛星などを打ち上げる計画である。このとおりに進むのであれば、種子島宇宙センターにとっては、2014年度の忙しさが今後10年間ほぼ同様に続くことになる。

打ち上げ計画数の増加に象徴されるように、日本の宇宙戦略は大きく転換した。その背景の一つに、世界における宇宙開発の状況が大きく変わったことが挙げられる。従来の米国と旧ソビエト連邦が宇宙開発をリードしてきた“二極構造”から、参加者が中国やインドなどの新興国や民間企業などへと多様化する“多極構造”へと大きく変化している。これらの新興国では今後10年間で過去10年と比べて約4倍の人工衛星の打ち上げが計画されている模様であるが、必ずしも自国における宇宙産業基盤が盤石ではないため、商業宇宙産業市場からの調達が計画されていると見られる。

今回の宇宙基本計画によると、日本の宇宙機器産業の事業規模として、今後10年間で官民合わせて累計5兆円を目指すとされている。ちなみに、2012年度の日本の宇宙機器産業の規模は3,150億円程度(日本航空宇宙工業会調べ)であり、単純計算では、約1.6倍への規模の成長を目指すこととなる。規模からみると大きな変化である。

このように、宇宙開発の視点は商業宇宙産業市場育成へと徐々に軸足が移っている。GPS(Global Positioning System;全地球測位網)に代表されるように、その技術を地上で積極的に利用する動きが活発化している。今回の宇宙基本計画でも様々な取り組みが掲げられているが、なかでも注目されるのが、衛星を使ったリモートセンシング(遠隔探査)である。衛星に測定器(センサ)を搭載し、地球を観測する。日本では現在、地球観測衛星として、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」や、水循環変動観測衛星「しずく」、熱帯降雨観測衛星「TRMM」、地球観測衛星「Aqua」などが運用されている。例えば「だいち2号」の場合、地図作成、地域観測、災害状況把握、資源探査等への貢献などがミッションとされている。2014年2月には2016年3月までに全世界の3D地図を完成させると発表、日本発のデータが全世界のデジタル3D地図のベースマップとなることが期待されている。これはリモートセンシングのほんの一例であるが、着実に実用化へ歩を進めている。こうした動きを後押しすべく、政府は2016年度末までに「宇宙活動法」やリモートセンシング関連法などの制度整備を進めるとしている。

はるか彼方の宇宙からのデータは地上に多くのビジネスチャンス、イノベーションをもたらすことになるだろう。どのように活用し、また付加価値をつけていくのか。民間の知恵の出番が来た。

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