地方の自立と多様性

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2015年03月13日

  • 小笠原 倫明

地方「消滅」というショッキングな問題提起を受け、地方「創生」が国の大きな政策課題となっている。昨秋ご縁があって出席した、東北のある市の会合でも、Uターン・Iターンへの取り組みについてご説明があった。私は、少し外した言い方だが「今この市に住んでいる方々自身が、どうやって元気になるかを第一に考えるべきではないか。住んでいる方々が元気であってこそ、都会の方を引きつける力も生まれると思う。」と申し上げた。

言うまでもなく、我が国の財政は厳しい。今後、年金や医療など社会保障給付のスリム化が求められるに加え、各種の社会資本についても、現在のレベルを維持することさえ困難となるおそれがある。

また、グローバル化によって、製造業は世界的な地産地消の時代。国内において、製造業がかつてのような規模の雇用を維持することは難しい。

多くの方が仰るように、これまで地方の雇用を支えてきた公共事業と製造業については、今後多くを期待しにくい状況と思われる。

余談になるが、江戸時代には、地方の藩は、幕府から公共事業の補助金や地方交付税を受けることはなかった。逆に幕府の事業を手伝わされることはあっただろうが。何より、江戸の町は、各藩のお殿様始め、地方の方が地方で稼いだお金を落とすことで成り立っていたのである。また、明治20年代まで、現在の47都道府県で最大の人口を有していたのが新潟県であったように、人口の分布も現在とは相当異なっていた。

勿論、これらは農業が国の基本であった時代のこと(江戸時代の人口は3千万人前後)。明治以降、特に戦後の日本の発展は、こうした社会経済構造を変革することによって可能となったものである。

また、現実に、税源に大きな地理的偏在がある以上、社会保障の公平性、教育の機会均等、住民の安心・安全等を確保するためには、大都市(首都圏)・地方間の一定の財政調整(所得移転)は、今後とも必要であろう。

しかし改めて、一次産業を中心とした地方の自立を考える時代と思われる。まさか江戸時代に戻るのではない。農林水産物の生産、加工、流通の進歩は当然のこととして、市場も、海外にまで広がっている。また、情報通信技術の進歩は、一次産業の生産性向上や高付加価値化(ex.各種センサーを活用した一粒千円のいちごの生産)にも寄与しえるもの。再生エネルギー技術は、間伐材等の地産地消、雇用機会の創出を可能にしている。

そして、自立とは本来「多様な」もの。よく「中央の押しつけ」と言われるが、地方自身も画一性・横並びから逃れることが必要ではないか。卑近な例では、ゆるキャラが全国いたる所で作られるといった事象は個人的には如何なものかと思われる。「(都会にあって地方に)ないものねだりから、(その地域に)あるもの探しへ」という言葉がある。みんなが同じような形で幸せ(元気)になるばかりでなく、それぞれ異なった形の幸せ(元気)もあり得るということかと思う。

自立に際しては、公的サービスの「効率化」が避けて通れない。東北の市の会合でも「この市単独で考えるのでなく、隣接の市町とどう連携・役割分担するかが大事。」と申し上げた。交通手段の進歩は、コンパクトシティや、医療、教育等の公的サービスについての市町村をまたぐ広域的な分担を可能にしている。勿論、地域の方々の合意が必要になる。

東京もまた別の意味の「自立」が必要である。最近の議論を通じて、東京都の出生率が、他県に比べ際立って低いことがよく知られるようになった。一方的に地方から若者を受け入れるのみ。それが我が国の人口減少の大きな要因・ひいては国の存続にも係わる問題を招いているとすれば、東京こそ自立すべきという見方もあろう。

何れにしても、この問題には腰を落ち着けた対応が必要。国政の最重要課題と位置づけられたのは最近だが、地方に住む方々にとっては、相当以前から目の前にある問題。国は、人材・ノウハウの提供や税財政の工夫等によって、全力で支援する姿勢を示しているが、国の在り方に係わると同時に、地域の方々の生活、意識、価値観にも係わる問題。先の東北の市の長や幹部も真剣に取り組み、また思い悩んでおられた。様々な規制の改革も含め、息の長い取り組みが望まれる。

小笠原 倫明

元総務事務次官。1976年京都大学経済学部卒業 郵政省入省。情報通信政策局長、情報通信国際戦略局長、総務審議官(郵政・通信担当)を経て2012年に総務事務次官。2013年10月~2015年6月大和総研顧問。

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