若者のテレビ離れと昼下がりの高齢者

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2014年08月18日

  • 田中 豪

「若者のテレビ離れ」という言葉が出回り始めてから15、6年が経った。「若者はテレビを見ない」「携帯やスマートフォンで十分」といった認識も世間に定着しつつある。実際の統計を見ても、10代や20代のみならず、30代や40代もテレビの視聴時間(※1)を減らしている(図表1)。このままテレビを見ない世代が増え続け、テレビ自体もいずれ消滅してしまうのだろうか?

実は、若年層の視聴時間が急減しているにもかかわらず、全体の視聴時間は微減に留まっている。これには、60代の視聴時間が増加したことと、50代、70代の視聴時間がほぼ横ばいだったことが影響している。また、テレビの視聴時間は年齢と比例して増加する傾向があるので、より長くテレビを視聴する高齢者の視聴時間の変化の方が、あまりテレビを見ない若年層の視聴時間の変化より、全体に与える影響は大きくなっている。よって、高齢者の視聴時間の増加が、全体を下支えしていると言える。これからも高齢者人口は増え続けるとみられ、家でテレビを見る以外にすることがないことが多い高齢者の視聴時間は安定的に推移すると考えられる中、テレビというメディアが生き残っていくためには、こういった高齢者に配慮した番組編成が必要だと考えられる。

具体的には、昼間帯の高齢者向け番組を増やすことが考えられる。よく耳にする「ゴールデンタイム」(19:00~22:00)や「プライムタイム」(19:00~23:00)の視聴率(※2)が減少する一方、午前中(9:00~11:00)や昼下がり(14:00~18:00)の視聴率は逆に増加している(図表2)。昼間帯の視聴率を年齢階級別に見ると、50代や60代の視聴率が主に増加している。1996年から2011年にかけての時間帯別視聴率の寄与度分解を見ると、60代以上の高齢者が昼間帯の視聴率の主な増加要因であることがわかる(図表3)。視聴時間の増加に加え、高齢者の数自体も増加しているので、寄与は大きなものとなっている。

2010年にNHK放送文化研究所が行った調査によると、高齢者がテレビに対して抱いている不満で一番多かったものは「自分の世代向け番組が少ない」であった(齋藤建作「高齢者とテレビ」、NHK放送文化研究所『NHK放送文化研究所年報2010』p.221)。60歳以上の高齢者が全体の7割程度を占める昼間帯だけでも、旅番組や健康番組など、高齢者に特化した番組を流すべきだろう。

一方、若者のテレビ離れの背景には、ストリーミングビデオやスマートフォン用ゲーム、無料通話アプリの普及など、メディア端末や余暇の過ごし方の多様化があり、テレビもスマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスに対応することが必要だろう。現状でも、ワンセグ放送でテレビを視聴することは可能なものの、画質は粗く、頻繁に再生が止まってしまう。筆者も先月、ブラジルW杯のオランダ対アルゼンチンの準決勝戦を通勤中に見ようとしたが、PK戦の途中に何度も画面が固まるという、非常にイライラする経験をした。電車やタクシーなどでの移動中や、地下鉄や地下商店街など地上波の届かない所でも、4G/LTEネットワークを介したIPTVなどで、高画質で安定したテレビ視聴が可能となる環境が整うことが好ましい。そうすることで、朝の通勤電車の中でニュース番組を見たり、帰りの電車の中でゴールデンタイムの番組を見る人も自然と増えるだろう。

昼間帯は在宅中の高齢者にフォーカスし、それ以外の時間帯は外出中の若者に向けてユビキタスに発信することが、テレビの生き残りにとって欠かせないだろう。

図表1:テレビの視聴時間の推移

図表2:平日にテレビ・ラジオを視聴、または新聞・雑誌を読んでいた人の時間帯ごとの割合の推移

図表3:1996年と2011年の視聴率の差の寄与度分解

(※1)総務省「社会生活基本調査」の調査票Aの「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」の活動時間を視聴時間とした。調査票Bによると、「テレビ」視聴の総平均時間は「マスメディア利用」全体の約80%を占めている(平成23年調査)ことから、テレビ視聴が「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」の主たる構成要素だと考えられる。また、これには録画した番組の視聴も含まれている。
(※2)一般的に「視聴率」と呼ばれているのは「世帯視聴率」と呼ばれるもので、各チャンネルの視聴世帯数を全世帯数で割ったものである。一つの世帯が複数のチャンネルを視聴していた場合、同一世帯が複数のチャンネルの世帯視聴率に同時に貢献することが可能なので、世帯視聴率の合計は100%を超えることがある。
一方、社会生活基本調査で計っている行動者率は、実際にテレビを見ていた人数を全体の人数で割ったもの(個人視聴率)である。よって、個人視聴率の合計の方が世帯視聴率の合計よりも小さくなる。

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