2014年の課題、賃金上昇を考える

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2013年12月26日

  • リサーチ本部 執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

2013年の日本経済を振り返ると、世界経済の復調と経済政策の転換によって企業マインドと市場心理が好転した。2014年は期待膨らむ展望を実感に結び付けることが求められる。実感という点では、名目賃金がカギだろう。民主党が2009年に政権を担当した少し前から直近までの約5年間に、実質賃金は累積で2.7%増えたが名目賃金は3.3%減っている。名目賃金上昇の広がりはデフレ脱却のためにも不可欠である。

当面の物価を見通す上で、名目賃金を生産性で除した単位労働コストは正当性のある指標である。単位労働コストの低下は生産コストの低下であり、世の中の価格を低下させる。2000年代の日本をみると、単位労働コストが上昇したのは2008~09年と2011年だけである。リーマン・ショックや東日本大震災の後のような突然の不況下では、生産性が急減しても賃金を急には調整できないため単位労働コストが上昇する。

では、2014年に求められていることは単位労働コストの引上げだろうか。名目賃金の上昇や生産性の低下は確かにインフレ要因である。だが、人々が名目賃金の上昇を望んでいるとしても、生産性の低下を望んでいるとは考えられない。潜在成長率の低下が懸念されているように、生産性上昇率を持続的に引き上げることが日本経済の課題である。成長戦略とはまさに生産性上昇率を引き上げて潜在成長率の向上を目指すものである。

生産性上昇率の低下は豊かさを奪い、生活を貧しくしていく。また、潜在成長率の低下は流動性の罠を通じてデフレをもたらしやすいから、強く警戒しなければならない。1人1時間当たりの生産性上昇率について、2007年の第一次安倍内閣は5年間で年率2.4%へ高めることを目標に掲げた。現在の第二次安倍内閣は10年間で2%の実現を目指しており、現実的かつ高めの目標に向け経済政策が運営されている。

現在、賃上げに向けた政策的な動きがみられている。労働市場で決まっている賃金率をそう簡単に操作できるとは思えないが、仮に生産性の動きに変化がない中で名目賃金を人為的に引き上げれば、株価下落や設備投資の停滞を招く可能性があるのではないか。一時的に消費が増えたとしても、長期的には貯蓄(投資)を減らして潜在成長率を引き下げるかもしれない。

結局、名目賃金が引き上がるのに十分な生産性向上や実質賃金上昇を、官民をあげて実現するしかない。実は、戦後最長の景気回復期だった2002~07年は年率3%近かった単位労働コストの下落率が、2012~13年は1%程度とかなりマイルドになっている。この間に生産性上昇率はむしろ低下した。有効求人倍率が1倍に近づいているように、労働需給は構造的にタイト化している。予想外に名目賃金や単位労働コストが上昇するなら、なおさら生産性を高めていくことが重要だ。

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鈴木 準
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