「右肩上がりの日本経済」はまだある

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2013年11月08日

  • 市川 正樹

下図は、65歳以上人口、単独世帯数、世帯主が65歳以上の世帯数、現金による社会保障給付額(※1)、現物社会給付額(※2)、平均寿命(男女別)のこれまでの推移と、一部については予測を描いたものである。いずれもこれまで増加を続け、今後も基本的にある程度の期間は増加を続けるものと予測されている。

こうしたグラフを見るたびに、社会保障支出の増大による財政赤字が大変、世帯当たり消費支出が比較的少ない高齢層が増える、などといった悲観的な発想に支配されてしまいがちである。

しかし、見方を変えると、皆、見事に増加を続けている。減少や停滞などばかり見慣れてしまった昨今、珍しいことである。むしろ、「右肩上がりの日本経済」がまだあった、と素直にとらえるべきかもしれない。

公的年金支給額は、改革により一人当たり支給額が減額されたとしても、それを上回るペースで受給者数は伸びていき、受給総額の大幅削減は困難とみられることから、消費の下支えにつながろう。なお、高齢者世帯は、中年世帯に比べると一世帯当たり消費支出は確かに少ないものの、世帯数がそれを上回る勢いで伸びているため、高齢者世帯全体の消費支出は増大を続けてきている(※3)。高齢者数の増加は、団塊の世代とその前後の世代が高齢者となることの影響が大きいが、それらの世代は若い頃からさまざまな新たな消費の形を生み出してきた。今度は、どういった革新を展開するのか見ものである。

単身世帯は高齢者を中心に増加するとみられるが、家計には、人数によらない固定費的部分があることや、世帯人数が多くなるほど購入コストが低下するという規模の効果が効くことなどから、世帯当たりの人員数が減少しても、世帯当たり消費額はそれほど減少しない。こうしたこともあって、単身世帯の増加は、必ずしも需要減少を意味するものではない(※3)。また、単身という特性から、構成員の多い世帯とは異なった分野の需要が高まるかもしれない。

医療・介護は、右肩上がりの現物社会給付額からも分かるように、「超」のつく成長分野である。政府の成長戦略においても重点分野のひとつであり、さまざまな政策的支援が行われている。財政支出削減努力が行われたとしても、高齢者数が猛烈な勢いで伸びる中、当面、給付総額については大幅な削減は難しいであろう。また、病気や要介護状態に陥ることはできれば皆避けたいものであり、そのための私的な健康志向支出はますます増大する可能性がある。社会保障受給者増も抑えられ、財政再建ひいては増税等の回避にも貢献しよう。

また、いまだに65歳以上が高齢者とされるが、女性では平均寿命は今や85歳を超え、いずれ90歳を超えると予想されている。もはや60代、70代は、まだまだ若いと言える。体力、知力、気力とも昔とは比べ物にならないほど充実しており、昔からの定義のまま高齢者と呼ぶのは失礼であろう。外来語を使うことには批判もあろうが、この点、「シニア」(英語ならaged ではなくsenior)の方が、必ずしも年齢を感じさせず、まだ良いのかもしれない。

多くの企業は、もはや国内市場は縮小するだけと海外市場開拓に余念がない。しかし、既に取り組まれてはいるところも多いのであろうが、実は、とんでもない大きな隠れた成長市場が国内にも存在すると考えれば、新たなビジネスチャンスも開けるのかもしれない。


まだある「右肩上がりの日本経済」

(※1)現金による社会保障給付には、老齢年金、失業給付、児童手当などが含まれ、2011年度においては、年金が9割程度を占める。なお、こうした概念はSNA(System of National Accounts:国民経済計算)によるものである。当社レポート 市川正樹「SNAで見た近年の財政」(2013年8月23日)を参照。
(※2)現物社会給付は、政府から家計への医療保険給付分と介護保険給付分である。上記レポートを参照。2011年度においては、医療が8割程度、介護が2割程度を占める。
(※3)当社レポート 市川正樹「高齢化のマクロ需要面等への影響はどの程度あったのか?」(2013年5月22日)を参照。

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