企業変革における8つのステップ

急がば回れ

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2013年08月14日

  • コンサルティング企画部 主任コンサルタント 枝廣 龍人

だれしも、慣れ親しんだものを手放すことには勇気がいるし、抵抗がある。

私が米国のビジネススクールで受講した”Leading and Managing Change”という授業の中で、SONYのプレイステーション2の事例を扱ったケーススタディがあった。プレイステーション2がNINTENDO64に比べて爆発的にヒットした理由は、巧みなマーケティングでも、クールなデザインでも、競争的な価格でもなく、結局、「初代プレイステーション」で使えたソフトやメモリがそのまま使えることだったという。消費者は、慣れ親しんだコントローラを使い、慣れ親しんだゲームを楽しみながら、今まで以上にハイグラフィックなゲームを楽しむことができた。慣れ親しんだものを手放す必要がないから、積極的に変化を受け入れたのである。

さて、企業変革ではそうもいかない。企業変革において、多くの社員は慣れ親しんだものを不可避的に手放さなければならない。面倒見のよかった上司が嫌な上司に代わるかも知れないし、ツーカーの仲であった飲み仲間と別会社になってしまうかもしれない。これまで積み上げてきた経験やネットワークが役に立たなくなる可能性もあれば、住み慣れた街を離れなければならないこともある。このため、大抵の場合、企業変革において多少の反発は避けられない。

このような企業変革の際に求められるのが、リーダーシップである。ここでいうリーダーシップとは、カリスマ性やプレゼンテーション能力を意味するものではなく、「人と組織を動かすノウハウ」を指す。この点、リーダーシップ論や企業変革論の権威であり、ハーバードビジネススクールの教授であるジョン・コッター氏は、100社以上の実例研究を通じて、企業変革において求められる8段階のステップを下記のように説いている(※1)

1. Establish a sense of urgency(緊急性の明確化)
2. Form a powerful guiding coalition(強力な変革推進チームの結成)
3. Create a vision(ビジョンの策定)
4. Communicate the vision(ビジョンの共有)
5. Empower others to act on the vision (権限の付与)
6. Plan for and create short-term wins(短期目標の策定と達成)
7. Consolidate improvements and produce more change(さらなる変革の促進)
8. Institutionalize new approaches(新たなアプローチの定着)

ジョン・コッター教授によれば、企業変革に求められるのは個人のカリスマ性でも、権力の集中でもない。上記の8段階のステップに則した計画とその実行能力であり、これが上記のリーダーシップに該当する考え方である。

反対に、このようなステップを経ずに行った企業変革は、その反発を招く可能性が高くなる。例えば、このコラムを読んでくださっている方々も、大なり小なり組織再編を経験されたことがあるだろう。その際、組織再編という成果を急ぐあまり、「なぜいま再編が必要なのか」「何のための再編なのか」について、将来的なビジョンの周知徹底が成されなかったという経験はないだろうか。そして、そうした組織再編に十分な結果が得られず、また組織再編のやり直しになったという経験はないだろうか。これは、1. Establish a sense of urgency(緊急性の明確化)や4. Communicate the vision(ビジョンの共有)がきちんと行われなかった際に起こりうる現象である。実際、多くの失敗事例において企業は5. Empower others to act on the vision (権限の付与)の段階から変革に着手し、6. Plan for and create short-term wins(短期目標の策定と達成)の段階で早々と「勝利宣言」をしてしまう傾向があるようだ。

企業変革には常に抵抗と反発が伴うことが予想されるため、じっくり腰を据えて、戦略的に取り組む必要がある。計画策定と社内コミュニケーションに十分な時間と労力をかけることが、結局は一番の近道になることも多い。第三者に意見や調査を求めることも有用であろう。急がば回れである。

(※1)John P. Kotter (2007.1), Leading Change –Why Transformation Efforts fail–, Harvard Business Reviewより

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枝廣 龍人
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