「ものつくり大国」復活への道

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2013年08月09日

  • リサーチ本部 副理事長 兼 専務取締役 リサーチ本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸

日本は伝統的に製造業が強い「ものつくり大国」だと考えられてきた。

しかし、近年わが国では電機大手企業が大幅な赤字決算を強いられるなど、「ものつくり神話」が終焉したとの見方も浮上している。今後、日本の「ものつくり」は一体どうなっていくのであろうか?

わが国の製造業復権のカギは「マーケティング力」の強化にある。

日本企業の根本的な問題点は、「消費者が本当に欲しいものを、適正な価格で作っていない」ことにあるのだ。

これに対して、最近、韓国企業がマーケティング力をテコに、日本企業のライバルとして存在感を高めている。とりわけ「サムスン電子」などの韓国企業は飛ぶ鳥を落とす勢いで台頭している。

日本企業は伝統的に社内で製造部門の発言力が強いため、マーケティングが軽視されてきた。

社長を中心とする企業幹部を輩出するのが製造部門であれば、発言力が強くなって当たり前だ。日本企業が製造部門主導で品質の高い製品を作っているのは確かであるが、「ものつくり」へのこだわりが強過ぎて、最終的に「オーバースペック(過剰装備)」の商品となる傾向が強い。

つまり、日本企業は「ほら。技術の粋を集めて、こんなに立派なものを作りましたよ。欲しいでしょう?」という「上から目線」で新商品を開発しているのだ。その結果、消費者から見ると、完全にピント外れの新製品が少なくない。

英国のダイソン社は、吸引力の強いサイクロン式掃除機を初めて開発するなど、わが国でも人気の家電メーカーである。

同社のダイソン社長は、2012年に来日した際、わが国の家電を皮肉り「掃除機が話をできる必要はありません。掃除機と話をする時間があれば、もっと他のことに時間を使ってください」と発言している。

日本企業は「技術で勝って、商売で負ける」と言われる。

マーケティング力が弱いというのが日本企業の致命的な欠陥だ。

日本企業と対照的に、韓国企業は緻密なマーケティングに基づいて、売れる価格の範囲内で最良の製品を作る。この結果、日本企業は価格面まで考慮すると、どうしても韓国企業に太刀打ちできなくなってしまうのである。

今後、日本企業は「マーケティング力」を従来以上に磨く必要がある。

野球のピッチャーに例えれば「技術力」の高さは速い球を投げる能力である。日本企業は時速150キロ台の剛速球を投げる能力を持っている。しかし、韓国企業という、球速は時速130~140キロ台だが、絶妙のコントロール(「マーケティング力」)を有するピッチャーに苦戦しているのだ。

今後の日本企業の戦略としては、剛速球に一層の磨きをかける(最先端の「技術力」を磨く)ことと、コントロールを良くする(「マーケティング力」を高める)ことの双方に、バランス良く取り組む必要があるだろう。

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熊谷 亮丸
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