計画的な事業承継への準備

RSS

2013年05月14日

  • 阪部 賢司

18万3,958社が抱える共通の課題は何かと聞かれて想像がつくだろうか。それは「後継者問題にかかる事業承継」である。
事業承継に関して、帝国データバンクが公表した「第2回全国オーナー企業分析」によると、オーナー企業26万7,255社のうち68.8%(18万3,958社)もの企業が直面しているとのことである。また、年齢別に見ると65歳以上のオーナーでは48.7%が後継者不足であることが判明したほか、事業承継の準備を始めるべき60歳前後のオーナーでも7割近い不在率となっているとのことである。

表1. オーナー社長分析
表1. オーナー社長分析
(出所)帝国データバンク「第2回全国オーナー企業分析」より、大和総研作成

中小企業経営者の高齢化が進む一方で、特に親族内における後継者の確保が困難になるなど、経営の承継は中小企業にとって重要な経営課題となっている。事業承継の対策が不十分なために、会社の業績が悪化してしまう場合もあることから、事業価値を維持しつつスムーズな方法で、次世代に事業を引き継いでいけるかが重要なポイントである。

事業承継は一朝一夕に行えるものではなく、中長期的な計画を前提に準備しておく必要があるといわれている。事業承継を考えるにあたり、まずは次の2点「承継の手法」、「計画的な事業承継」について概要と留意事項をみてみよう。

まず一つ目の「承継の手法」については、時代の変遷とともに、親族内承継から役員・従業員等の親族外承継、更にはM&A(合併・買収)を活用した第三者に対する親族外承継など事業承継も多様化してきている。多様化した事業承継手法の中から最善の手法を選択するに当たり、以下にそれぞれの手法について主なメリット・デメリットを整理してみた。

表2. 主な事業承継手法におけるメリット・デメリット
表2. 主な事業承継手法におけるメリット・デメリット

冒頭の後継者候補が不在という課題を抱えるオーナーにとっては、上記に述べたM&Aを用いた事業承継が検討すべき選択肢の一つであることから、近年M&A仲介機関を利用した事業承継を行うケースが増加している。ただし、取り得る手法の選択については、オーナーにとってのメリット・デメリットだけで判断するのではなく、従業員を含めた会社の将来の発展について充分に検討を重ねた上で、実行に移すことが重要であることに留意いただきたい。

二つ目は「計画的な事業承継」である。親族内承継や従業員等による親族外承継については、スムーズに事業承継が進むと思われるが、相続税納入、事業用資産の後継者への集中移転、個人債務保証の引継などといった解決すべき大きな問題が存在することから、中長期的な準備期間を要することが想定される。
また、M&Aによる事業承継については、自前ですべての手続を行うことは難しいため、専門的な知識やロングリストを有するM&A仲介機関に仲介を依頼することが多いが、魅力的な企業でなければ買い手候補を探すのは容易でない。そのためには、M&A交渉までに自社の企業価値を少しでも高めておくことが重要ポイントとなる。
M&A仲介機関がオーナーの希望条件にうまく合う企業を見つけることは簡単な作業ではなく、買い手候補の探索には、数か月から数年以上といった中長期的な期間がかかることもある点に留意いただきたい。

事業承継については、どの企業にとってもいつかは訪れる重要な課題である。事業承継問題に直面してからではなく、早い段階から十分な準備・検討を行っていくことで、事業承継をスムーズに行う事が可能となる。事業承継に向けた準備に「早すぎる」ということない。ぜひ、企業経営を行うオーナーの方には、一度、貴社の事業承継について検討してみていただきたい。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。