経営戦略としての企業年金

企業年金再考

2013年5月1日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 コンサルタント 川名 剛

近年の年金基金を巡る激変は、目を見張るものがあった。独自の運用方針で存在感を示してきた米CalPERSやノルウェーGPFGをはじめとする欧米の大手年金基金は、リーマンショックを経てその対応を大きく見直す一方、日本の年金基金は、AIJ事件や厚生年金基金の代行割れなどの問題が噴出している。このような状況の中、特に企業年金については、財務的観点からは多方面で議論されてきたが、経営戦略としてはあまり議論されていない。ここでは、経営戦略、とりわけ報酬戦略の観点から、企業年金のあり方を再考したい。

これまでの企業年金は、終身雇用、家族的経営といった日本的経営の下で、退職後の老後生活も一定程度保障することで、従業員の帰属意識や忠誠を確保しようとするものであった。しかし、従業員の高齢化や就業意識の多様化、年金給付を賄う資金の運用難、退職給付会計導入による母体企業の債務としての顕在化、厚生年金基金における設立母体構成や代行制度の不合理性など、企業年金のあり方自体が問われている。企業年金は退職金制度を基にした任意の私的年金であるが、従前の雇用環境の下で公的年金を補完する上乗せ年金として社会保障制度の一環と見られてきた(代行制度等によって取り込まれたといってもよいかもしれない)(※1)。しかし、企業年金は、特別の法律に基づくものであるもののやはり私的年金であり、本来それを設定する企業の経営戦略としての位置付けが出発点となるべきものである。

それゆえ、事業環境の変化や雇用の流動化が進む現在、退職後に「年金給付」という形で処遇することが従業員のモチベーション向上や企業の持続的成長につながるかという視点がますます重要となる。従業員の終身在籍や社内技術の開発継承等、長期雇用に戦略的な重要性が高ければ年金としての処遇の意義は高まる。一方、若年層や専門性の高い外部人材を取り込む必要性が高い場合は、年金としての処遇は逆効果となる場合がある。むしろベース年俸や勤続年数で極端に不利にならない報酬戦略(退職金を含む)の構築が重要となる。

もっとも現行の確定給付企業年金や確定拠出年金(401k)は、厚生年金基金や適格退職年金からの移行(あるいは退避)、ポータビリティ性、掛金拠出者、税制措置などにおいて、制度設計自体が従前の雇用慣行から抜け切れない発想に基づいており、企業の報酬戦略だけから考えることはできない欠陥も多々ある。我が国の年金制度が、公的年金の役割、税負担の範囲、現行の厚生年金基金制度の存廃、個人型年金積立金非課税制度(日本版IRA)の導入等、抜本的な改革が必要であることは論を待たない。しかし、企業の側としては、それらの議論の決着を待つのではなく、企業年金ないしそれに代替する施策について、レガシーコストとして逃げの対応に終始せず、新たな報酬戦略として積極的に認識していくことが、これからの人材活用と競争力向上のためにも重要である。


(※1)平成8年度の厚生年金加入者に占める企業年金加入者(厚生年金基金および適格退職年金)の割合は約7割であった。

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