日本企業の収益力評価と設備投資減税

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2013年01月11日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

日本企業の収益力が低下していると指摘されることが多い。確かに表面上の資産収益率、例えば自己資本利益率(ROE)や経営資本営業利益率などをみると欧米企業に比較して平均的に低い水準にあり、特に90年代以降はそれが定着してしまっている。

しかし、日本企業の収益力評価を名目の資産収益率で評価してしまってよいのだろうか、という疑問もわく。

まずは具体的に数字をみてみよう。実際の事業における資産収益性は経営資本営業利益率でみるのがよいだろう。これは営業活動に投下されている資産に対して営業利益がどれだけあがっているかをみたものである。法人企業統計によって、日本の製造業について計算してみると、2011年度で4.2%であった。また、非製造業(金融・保険を除く)は、4.3%であった。確かにどちらも高い値ではない。米国の製造業について同期間で計算してみると、17.2%になる。際立った違いだ。ただし、稼働率の違いやインフレの違いによる影響も考慮すべきであろう。

日本の製造業の経営資本営業利益率の長期データについて、稼働率指数を考慮した回帰分析を行ったところ、現実には稼働率が低下してきたという影響を除いて仮に2005年並みの稼働率を想定すると、経営資本営業利益率は14.1%だと推計できる。つまり、資本収益性の低さはかなりの程度、稼働率の低さで説明できる。


だからといって、マクロの景気のせいにだけして企業経営が問題でないかというと、そういうことにもならないだろう。円高が大きく進行して輸出環境が悪化したことは日本の製造業に需要数量的にも価格的にも大きな打撃を与えたことは間違いない。しかし、国内需要の方向性を決めるのは設備投資であり、日本企業が、キャッシュフローがふんだんにあるにもかかわらず、国内の設備投資に消極的だったことがマクロ経済全体を悪くする要因にもなり、それが企業の収益率の低迷にもつながっていたのだ。

円高・デフレ傾向を是正しつつ、産業構造の改善につながる企業の設備投資の回復を導くことが経済再生の政策のベースラインとなるべきである。厳しい財政事情に鑑みれば、財政支出がそのまま需要になるような施策よりも、減税や補助金がその何倍もの民間投資を誘発できる政策を重視すべきであろう


その意味では設備投資減税がもっともふさわしく、これを「刺激型」で行うには、設備資産の純増加部分、言い換えると純投資部分に対して、一定率を税額控除方式で減税する方法がもっとも効果的であろう。このメリットは設備を増加させていく積極的な企業だけが受ける。必ずしも生産拡張には限られず、労働代替的な投資でも恩恵を享受できる。前向きな投資を行う企業がメリットを享受できるので、産業構造の改革も進めることができる。また今後の成長産業にフォーカスした政策減税とすることも可能だ。環境、エネルギー、医療などの分野や研究開発に対しては減税率を大きくすることも検討してよいだろう。

こうした減税は企業の収益率が低いと効果が出ないという反論もある。しかし、前記の数字をみれば、現状は稼働率の低さによって見た目の収益率が低くなっているだけであり、企業の限界的な収益性はかなり高いと見積もられるのである。企業にたまっているやや過剰ですらあるキャッシュフローを、日本の経済再生に活用する投資減税をただちに発動するべきである。

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