続・金融政策にできることと副作用—超過準備への付利をいったんゼロ以下にすることも有効

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2012年11月22日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

前回コラムに引き続き、金融政策をさらに緩和していく手段について考えてみたい。為替市場では、円高は一方的なものからやや改善しつつあるが、それでも水準としてみると円は主な外国通貨との購買力の比較においてはまだまだ高く、日本の輸出産業は相当不利な環境下にある。そのために貿易赤字も定着するかに思えるほど国際収支が悪化している。それでも円高が大きく修正されないのは、もっぱら金融的な要因によって、つまりデフレで実質金利が稼げる通貨であることによって円の需要が他の通貨より大きくなってしまっているからである。実質金利でみると先進国通貨の中で円が一番高い、つまり買われて当然ということになってしまっているのである。これに加え欧州の金融不安は通貨が強い円への資金逃避を招くという要因もある。これでは円高を修正することは難しい。


実質金利を欧米並みのマイナスにするには、名目の十分なマイナス金利が必要であるが、原理的に考えると、そうしたマイナス金利を実現するのは非常に難しい。前回(10/25コラム)では、その代替策を考えたわけだが、今回は、少しでもマイナス金利に近いことはできないか、という視点で考えてみたい。


日銀当座預金は、かつては無利子であったが、2008年11月から日銀に補完当座預金制度が導入されたことによって必要準備額を超える準備預金(超過準備額)に対して、利息を支払うことになった。市中銀行は日銀に資金を預けることで安全に0.1%の金利を稼ぐことができる。一方で、預金金利は大手銀行では1年物で0.025%、10年物でやっと0.1%である。銀行は預金を受け入れてそのまま日銀に預けることで容易に利ザヤを得ることができるのである。こうした理由で日銀の当座預金の残高が膨らんでいても、これを量的緩和と呼ぶのは不適当だろう。


現在、超過準備額は29兆8,620億円(10月平均)の規模に増加している。30兆円の残高にたいしては、0.1%の付利といっても、年間にすれば300億円になる。けっして大きい額であるとまではいえないが、これがあたかも銀行への補助金のような存在になってしまっている。この付利をいったんゼロとする、あるいはマイナス金利=預かり手数料を徴収することによって、金融緩和をいっそう進めることは可能であろう。表面的には当座預金が減り、量的緩和の否定のよう見えるかもしれないが、実際にはお金が銀行システムの外に向かう圧力を創るのであり、金融緩和を進めることになる。もちろん、付利をやめる程度で銀行貸し出しが増加するとは期待できない。しかし、資金が国債購入に向かうなどして、少なくともある程度、長めの金利にも低下を促す影響がでてくることが期待でき、円高要因を緩和することはできるはずである。


中央銀行の当座預金(一定額以上の部分)へのマイナス金利適用はすでに7月からデンマークで行われている。その効果のほどを評価するのはまだ早いが、それが政策として現実的なものであることは十分に証明されている。また、そうした欧州の金融緩和の進展は、ドイツなどの国債が短期市場ではマイナス金利で取引されるまでになっている。同様の現象が日本で起きないとは断言できないだろう。

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