楽観論と悲観論が交錯する中国経済

2012年7月6日

  • 常務理事 金森俊樹
中国当局は、昨年中頃までインフレ圧力の緩和、特に不動産のバブル的状況を抑えるため、引き締め気味の金融政策を採っていた。当時、筆者の友人の北京大学の金融学者によると、中国の学者の間では、むしろ景気の冷やし過ぎを懸念する声が少なからずあったようだが、その後、インフレが昨年央をピークに沈静化し始める一方、当局が金融緩和に舵を切り始め、中国国内では全くと言ってよいほど、中国経済のハードランディングを懸念する声は聞かれなくなった。しかし最近に至り、欧州信用不安が長期化する中で、第一四半期GDP伸び(市場予想8.4%に対し、実績8.1%)、製造業購買担当者指標PMI(5月が市場予想52.2に対し50.4、6月は50.2とさらに年初来最低を更新)、固定資産投資伸び(2010,11年各々24.5%、23.8%から、本年1-5月20.1%に低下)、輸出の大幅な鈍化(同、各々31.3%、20.3%の伸びが8.7%へ低下、また、2月は単月で貿易赤字を記録)等、各種指標が軒並み弱い数値を示し、中国国内でもこれまでよりは、先行きにやや厳しい認識が持たれるようになってきているのが現状だ。しかし、なおハードランディングを予測する声は、中国国内で少数だ。


この間、海外では総じて、中国経済もいよいよハードランディングの危険性が高まってきた、あるいは、今回は中国経済にもリーマンショック後のようなアンカー役は期待できないといった論調が主流の印象である。これはひとつには、漏れ聞くところによれば、日本のメディア報道(おそらく海外メディアも)では、現場の記者が中国経済は安泰だとの取材をしても、そのトーンでは記事にならないと却下される傾向が強いようであること、また、ほんとうに中国経済の実態がわかっているかどうかは別にして、中国を日々フォローしている者が総じて楽観的見方をするのに対し(中国の政策当局への高い信頼か、民主主義コストをあまりかけない機動的な政策決定に対する信頼か?)、そうでない者が悲観的見方をする傾向が従来から強いこと、さらにはちょうど、次期総理と目される李克強副総理が、かつて、中国のGDP統計はあてにならず、むしろ電力消費量、鉄道貨物量、銀行融資額の3つの指標を重視していると発言したとされることが最近また報道され、これら指標がいずれもはかばかしくないということも影響しているようである。

(李克強副総理が注目する3つの指標)
(李克強副総理が注目する3つの指標)
(資料)人民銀行


中国経済は、現在、多すぎる統計とコンセンサスの欠如に悩まされているが(surfeit of statistics & a lack of consensus, 6月28日China Economic Review)、少なくとも今回は、2008年リーマンショック後に打ち出された4兆元規模のような大型財政刺激策はなく、また適当でもないという点では、当局も含めて大方の共通認識があるようだ。その理由は、第一に、リーマンショック後の大型財政刺激は景気を急速に回復させはしたものの、過剰流動性からインフレや不動産のバブル的状況、さらには地方融資平台を通じる地方政府債務の積み上がり・その不良債権化が懸念されるといった深刻な副作用をもたらしたという反省があること、第二に、すでに低い投資効率をさらに低下させるおそれがあること、第三に、財政刺激を通じて引き続き投資主導の成長を図ることは、中期的に成長パターンの転換を図ろうとしている政策に逆行すると考えられるためだ。これらはいずれも当を得ているが、投資から消費主体への成長モデルの転換は一朝一夕には実現できず、したがって、ハードランディングといった事態を回避するためには、短期的にはなお、(それが4兆元といった大型財政刺激策ではないとしても)、ある程度、投資に依存する政策もあり得る。


今年の成長率は8%前後になるというのが、現時点での大方の予測である。中国当局の年初の見通しは7.5%、現行12次5か年計画の計画期間中の年平均成長率は7%程度と置かれており(言い換えれば、以前のように、「保8(バオバー)」、すなわち、すなわち何が何でも8%以上の成長を堅持するとは言わなくなっている)、仮に実績が7%台に割り込んだとしても、中国当局は、ハードランディングではなく、むしろ想定通りのスローダウンだと主張することになろう。7%台でも多くの先進国に比べれば高い成長率だが、10%前後の勢いで成長してきた中国経済にとっては、かなりの景気の冷え込みを実感することになり、また世界第二位の経済大国である中国経済の減速は、世界経済へも一定の影響を与えることにはなる。しかし中所得経済の仲間入りを果たした中国も、経済がさらに成熟していく過程で、永遠に10%を超えるような成長を続けることはできない。ハードランディングとは言えない程度に当面の景気をスローダウンさせ、中期的により持続可能な成長軌道を模索していくことは、むしろ中国にとっても、また世界経済にとっても望ましいことと言うべきだろう。

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