総選挙でも解消されない対立軸のねじれ

2009年8月19日

  • 情報ビジネス推進部 高橋正明
8月30日に迫った総選挙では、自由民主党が1955年の保守合同から半世紀以上維持した衆議院第一党の座から転落し、民主党政権が誕生するかが焦点になっている。だが、そもそもなぜ自民党は先進国の中では異例の長期政権を維持してこれたのだろうか。

自民党政権の時代は経済成長率によって3期に分けられる。第1期は高度成長期(1人当たり実質GDP成長率は8%)が終わる1973年までである。この時期には高成長が当たり前のことのように思えたため、「将来のGDPがはるかに増大していることを前提に支出計画を立てる」政策こそ現実的かつ国民の要求に合致するものだった。現在、危機的状況にある社会保障制度が整備されたのもこの時期である。その総仕上げが「福祉元年」と呼ばれた73年で、田中角栄内閣により、老人医療費の自己負担無料化や年金給付水準の大幅引き上げといった大盤振る舞いが実施された。

第2期は第一次石油危機からバブル崩壊までの中成長期(1人当たり実質GDP成長率は3%)で、都市からの所得移転と国債発行を原資とした地方での公共事業により、自民党は生活水準を全国的に上昇させた(※1)。「景気対策=国債発行+地方での公共事業」という自民党の得意技の完成である。成長率は低下したものの、自動車と電機・半導体産業がアメリカを圧倒してジャパン・バッシングを引き起こすほど企業の国際競争力は高まり、日本経済の未来は磐石に思えた。地方へのバラマキが可能だったのも、日本人が“Japan as No.1”という余裕に浸っていられたからだった。

こう振り返ると、自民党政権を支えたバラマキ政策は、戦後の日本経済が世界史的にも特筆される高成長を遂げたからこそ可能だったことがわかる。今となっては荒唐無稽だが、バブル期には「21世紀には日本が世界最大の経済大国・覇権国家になる」と真剣に語る識者も少なからずいた。このような環境では、国民に現状肯定バイアスが生じるのが自然である。自民党は経済の高成長という追い風に乗って安定政権を維持してきたのである。

だがこれは、日本経済の快進撃が止まれば、高成長を前提としたバラマキ政策が「値上がりを前提にサブプライムローンを組んで高価な住宅を購入する」と同じことになるため、国民生活と自民党政権の基盤を逆に危うくすることを意味する(※2)。そして、バブル崩壊後の第3期(1人当たり実質GDP成長率は1%)は、自民党が一時下野するなど、まさにその通りに事態が推移している。

日本経済の成長率は人口動態と密接に関係している。下のグラフからは、働き盛り世代が総人口に占める割合の上昇期・横ばい期・下降期が、経済の高成長期・中成長期・低成長期とほぼ一致することが見て取れる。日本経済は労働力の枯渇のため、低成長しか望めない長期停滞(衰退?)局面に入っているのである。人間にたとえるなら、「成長途上の若者」の時期は90年代で終わり、「盛りを過ぎて衰える一方の中年」になっている。若い時と同じ行動を続けることは体に毒で、成長を前提としない経済社会システムへの転換が急務である。
日本の経済の成長率は人口動態と密接に関係している。

だが、高成長という環境に過剰適応していた自民党は、それがゆえに環境変化についてゆけず、旧来の政策を繰り返して国と地方に800兆円の長期債務を積み上げてしまった。さすがに国民の多くも、21世紀に入る頃には高成長を前提としたシステムが持続不能であることに感づいた。「構造改革」を訴えた小泉政権が異例の高支持率を得たのは、システムの抜本的変更を求める国民の潜在願望に応えていたからだろう。逆に、最近になって自民党の退潮が著しいのは、それが期待できないと国民が見切りをつけたためではないだろうか。

とはいえ、「非自民=成長を前提としないシステムの提唱者」ではないのが悩ましいところである。高齢者医療制度(※3)など、むしろ野党が高成長頼みの政策を打ち出している分野も多く、非自民政権が誕生しても、システムの完全刷新は期待薄である。マニフェストを読む限りだが、日本が急速に老化していくことの深刻さを完全に理解している政党が一つもないことを考慮すると、成長頼みシステムからの完全脱却を争点とした総選挙が実施されるのはまだまだ先だろう(手遅れにならないことを願いたい)。

(※1)東北・北陸地方の冬季の出稼ぎがなくなったのはこの時期

(※2)小沢一郎氏が90年代初頭から自己責任・規制緩和を軸とした新自由主義的システムへの変更の必要性を主張していたことは注目される。旧来型システムの中核にいたからこそ、その限界を早くから見抜けたのだろうか。

(※3)後期高齢者医療制度は“破綻救済”が目的!

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