蔓延する「Too big to fail」

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2009年07月29日

  • 片瀬 恵次郎
今回の金融危機の下、欧米の銀行に政府資金が注入されたという話をよく耳にする。

イギリスではロイヤルバンク・オブ・スコットランドやロイズバンク、スイスではUBS、またアメリカではシティバンクやバンク・オブ・アメリカに。
特にイギリスの両行は政府が過半の株式を保有し、実質、国有化されている。
これらの銀行いずれもが各国市場で上位の銀行であるにもかかわらずである。この資本注入は「bail out」と呼ばれている、銀行救済、つまり、お助けプランである。これはこの資本注入がなければ存続できなかった銀行があったかもわからないということでもある。

破綻させると経済が大混乱に陥るから救済せざるを得なかったというのが救済の論理である、言い換えれば、これらの銀行は破綻させるには大きすぎる、「Too big to fail」であると。
しかし預金者や債権者に預金や借入金を返済するのに十分な資産を保有していれば、いくら規模が大きくても、手続き面での混乱を除いて銀行を清算するのに困難は伴わないと考えられる。もっとも、そのような状況で銀行の清算が必要になることはないが。

ということは「Too big to fail」というのは清算すれば債務超過であると言外に言っているように思える、破綻させればその銀行だけでなく、債務超過に絡む損失が他の金融機関にもおよび金融システム全体が崩壊すると。

しかし巨大銀行が金融システムを人質に取り、政府から無限の支援を引き出すことができると考えているとすれば問題である。
経営失敗の結果、崩壊の瀬戸際に至ったのに誰もその責任を取らない、取る必要がないと考えていること。これは経営の規律という点で大きな問題である。

さらに、経営を失敗した金融機関の信用力がなんら失敗をしていない金融機関よりも政府資金により高くなるという皮肉な結果もある、これらは資源配分を市場の働きに委ねることにより進化を目指す資本主義(市場主義)とは相容れない。
まさに資本注入を受けた欧米の銀行経営者は表で市場主義を唱え、裏で市場を破壊する行為をしていたことになる。
しかもこのような経営者が蔓延していたこともわかった。ただ、彼らを根絶するには至っていないが。

このような点に気付いたイギリス中銀やスイス中銀の高官は「Too big to fail」というような聖域に不快感を表明している。「潰せないほど大きい金融機関はすでにそれだけで大き過ぎる」と。

これらのことから判断すると、今後の金融規制は十分な資本リザーブだけでなく、金融機関の巨大化に対する規制もありえそうだ、それ以前に当局者の苛立ちからは金融システムが安定化するにはまだまだ時間が掛かるのが垣間見える。

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