自己株式の消却に対する株式市場の反応

2006年11月7日

  • 投資戦略部 壁谷洋和
企 業の行う自社株買いは、最近では株主還元の一環としてすっかり定着し、年間で数兆円規模にまで拡大している。企業が買い付けた自社株は、将来の M&A等に備えて、金庫株として保有されることが多く、企業の大株主上位に自身が顔を出すケースも珍しくなくなってきた。金庫株の行方について、 関心を寄せる市場参加者も少なくないと見られるが、2006年10月23日付けの日本経済新聞では、2006年に入ってからの自己株式消却の増加が指摘さ れている。

東証発表の統計から確認すると、2006年1-8月には既に約2.7兆円の消却が実施されたことが分かる(下表)。今年は再編に伴う大規模な消却によっ て、全体の金額が押し上げられている面も強いが、そうした特殊ケースを除いても、今年は2005年実績を上回ることはほぼ確実で、新たなトレンドが生まれ ようとしていることは事実であろう。

表 自己株式処理状況
(出所)東証 (注)各月の月末現在において東証に上場している内国株式が集計対象。

株式消却と株価の関係を考えたとき、真っ先に思いつくのはEPS上昇によるバリュエーションの改善である。実際の株数と市場が認識する株数にギャップが生 じ、消却というイベントによってそのギャップが埋まるとき、適正水準まで株価が押し上げられるという考え方だ。しかし、最近では“金庫株対応”が進み、株 価指標は金庫株控除後の株数をもとに計算されるのが一般的である。そのため、上述のようなバリュエーション修正の関係は成り立ちにくい。

それでも、大規模な消却が実施された時には、株価は短期的にポジティブな反応を見せることがある。その一つの解釈としては、将来の需給不安解消に対する市 場の好感を挙げることができる。上表に見られるように、自己株式の処理として、消却が増加する一方で売出しによる処分も増加傾向にある(表中で「引き受け る者の募集による処理」がそれに該当)。企業の安易な自己株式再放出に対して、投資家の警戒感は根強く、そうした不安材料の払拭が株価にポジティブな影響 を及ぼしている可能性がある。

東証1部上場企業の金庫株状況について見ると、全体の4分の3の企業で対発行済みの比率が2%以下となっている。概ね1%台が平均的な水準と言えるが、金 庫株比率が5%を超える企業も全体の1割強存在する。自社が筆頭株主となっているケースもあり、金庫株比率の高い企業は今後の対応が注目される。売出しか 消却か―自己株式処理に対する企業のスタンスが、短期的にでも株価の明暗を分けることは十分に考えられる。

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