2015年11月から12月にかけてののべ約1ヶ月間、ミャンマーのヤンゴンからバガン、インレー湖、マンダレーを廻り、各地の企業と工房を訪問する機会を得た。そこでは様々な人々や風景との出会いがあり、印象深い事柄が多くあったが、中でも強く心に残ったことを簡単に紹介したい。
ヤンゴンでは蟹の養殖場を訪問する機会があった。その事業はソフトシェルクラブ(脱皮直後の甲羅の軟らかい蟹)の養殖と輸出であったが、その手法は極めて労働集約的であった。蟹を一匹ずつ入れたプラスチック箱で巨大な筏を組み、養殖池に渡した橋の上から、職員が昼夜交替で筏の中の蟹を一時間ごとに監視する。脱皮していればすぐに捕獲、冷凍され、後日まとめて日本、韓国をはじめ北米、豪州、シンガポール等に出荷される。もし、国内でソフトシェルクラブを食したことがある方がいたとすれば、その蟹は実はミャンマー産だった可能性がある。
バガンでは、仏塔群に囲まれた街で複数の漆器工房を訪問したが、観光客数の増加とともに漆器の売上は概ね伸びているとのことだった。ただ、日本の伝統工芸と同様、経済発展とともに若手職人のサービス業等への流出が課題となっており、バガンにある漆工芸の大学も後継者育成機能はうまく果たせていないようである。また、国連工業開発機関(UNIDO)による漆器産業調査(2014年)でも指摘の通り、プラスチック製の偽漆器が一部で製造・販売されており、正直に製作を行う工房が迷惑しているとの残念な話も耳にした。馬の尻尾を用いて弾力を持たせた漆器等、バガンの魅力的な漆器製品は多く、その価値を毀損しないためにも、今後は品質認証や知財保護制度の整備が必要となるだろう。

シャン州のインレー湖は標高が高いため、植生や気候は日本のそれを思わせた。そこでは、蓮の茎の繊維から作られる蓮糸(藕絲「ぐうし」とも呼ばれる)を織る工房を訪問し、一枚のショール(売価は約200-300USD)の製作に数千本の蓮が必要と聞いて驚いた。蓮の布はミャンマーでは仏僧の袈裟の素材として珍重され、日本でも奈良県の当麻寺の曼荼羅は中将姫が蓮糸(実際は絹)で織ったとの伝説がある。
この蓮糸の正体は、蓮の維管束の導管を構成する繊維である。蓮の茎にカッターで切り込みを入れてポキッと折り、捻りながら横に引くと、断面から蜘蛛の糸のような非常に細い繊維が出てくる。これを引き出して台の上に置き、軽く手で縒れば糸ができる。糸を長く伸ばすには、次の茎を折って、先に縒り残した部分に重ねるように繊維を置き、一緒にまとめて縒ればよい。40kgほどの蓮の茎から採取できる蓮糸はわずか2-3gとも言われ、一枚の織物に要する労力を考えると気が遠くなる。
ちなみにこの蓮糸製作の工程は、2015年7月に経済産業省とJETROが東京の青山で開催したミャンマーのファッション・物産展示会でも、安倍総理とテインセイン大統領の臨席のもとで実演された。また、東京都町田市の社会福祉法人が運営する町田市大賀藕絲館では、香袋等の蓮糸製品を実際に製作・販売している。

今回の滞在を通じ、上記のようにミャンマーの風土の多様性と奥深さを今更ながらにしみじみと実感した。ミャンマーが、鉱物や農産物等に加え、文化的にも豊富な資源に恵まれていることは既に各所で言われる通り、疑いの余地はない。こうした潜在力を具現化できれば、都市部だけでなく地方でもミャンマーの発展を加速することができるだろう。
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