アジアンインサイト
中国の"一帯一路"戦略大構想が本格始動

2015年5月1日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 張暁光

(1) 「一帯一路構想と行動」を発表

去る3月28日、中国政府の国家発展改革委員会、外交部、商務部の3機関は「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードを推進し共に構築する構想と行動」(以下、「一帯一路構想と行動」)を発表した。これで、約2年間議論され、世界から関心を集めていた幻のような壮大な戦略構想は、早々に実行の段階に移っていることが判明した。

“一帯一路(One Belt And One Road。“OBAOR”とも呼ぶ)”構想は、2013年9月、10月と2回に分けて習近平国家主席が国際舞台で初めて発表し、その後国内、海外における一連の情報発信と意見交換を通じて、中国政府は一気に国家戦略まで仕上げた。それは、中国から中央アジア、ロシアを経てヨーロッパに向かう「シルクロード経済ベルト」と、南シナ海からインド洋を経てアフリカ大陸に繋がる「21世紀海上シルクロード」を中国が主導役として開発し推進していく戦略的大構想である。

(2) 構想内容

「一帯一路構想と行動」は、八つの分野にわたる内容構成であるが、ここで要となる三大分野についてレビューしておく。

①開発推進ルート
「一帯一路構想と行動」において、上記戦略構想は一本ずつのルートではなく、細かく分けて5本の開発ルートがある。シルクロード経済ベルトは、①中国から中央アジア、ロシアを経て、ヨーロッパに至るルート、②中国から中央アジア、西アジアを経てペルシア湾、地中海に至るルート、③中国から東南アジア、南アジア、インド洋に至るルートという三つのルートからなる。そして、21世紀海上シルクロードは、①中国の沿岸部の港から南シナ海を経てインド洋やヨーロッパに至るルート、②中国沿岸部の港から南シナ海を経て南太平洋に至るルートという二つのルートから構成される。

②協力推進方式及び重点分野
「一帯一路構想と行動」は、関連国家、地域間に既存する多様なメカニズムを活用することが前提とされ、さらなる協力内容の充実と関係強化を図ることとされている。例えば、上海協力機構(SCO)、中国ASEAN自由貿易協定(ACFTA)、アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)、大メコン圏(GMS)など10数のコミュニティーが相当する。当面取り組む重点分野として21項目が挙げられているが、政策面の密接な意思疎通、経済交流に係る関連基準の共通化、交通インフラのボトルネックの早期解消、シルクロード基金とAIIBの設立による資金提供ルートの開通、観光、教育助成など人的資源の開発による国民間の信頼醸成と親善促進を図ることなどが最重要視されている。

③中国国内における役割分担
「一帯一路構想と行動」に関連する多数の国家のうち、すでに40ヵ国から関心表明があったそうである。一方、国内においては、西北6省区、東北3省、西南4省市、東南5省市が直接関与する自治体として指定されている。そのうち、新疆自治区は中央アジアを経由するシルクロード経済ベルトの中心地となり、雲南省、広西自治区は東南アジアを経由するシルクロード経済ベルトの重要起点となる。また、福建省は21世紀海上シルクロードのメイン窓口となる。

産業別に捉えれば、高速鉄道関連産業、港湾及び道路建設業種、運輸物流業界、電力事業産業、建築材料業界にとって、大きなプラス材料になる見通しである。

(3) 戦略構想の背景と目的

2013年に政権に就いた習近平国家主席が、早々に「一帯一路」の戦略構想を打ち出した背景には、中国経済のさらなる発展を実現するために、これまでとは異なる成長モデルを構築する必要があったと見られる。つまり、海外投資受入れと商品輸出に依存するだけではなく、その逆の行動として、積極的に海外進出を通して、財、物、人などの要素を投入することによって、新たな経済圏を育成することである。その背景は以下の3点である。

①中国は1978年「改革・開放」政策を打ち出してから、2013年まで約35年間の高度経済成長を実現してきた。この高度成長を支えてきた成長モデルには、政府による持続的な固定資産投資、先進諸国からの多額な直接投資、大量な廉価商品の輸出というキーワードがあった。しかし、近年このキーワードの経済成長効果が次第に小さくなり、むしろマイナス効果が顕著になっている。国内を見ると、地方政府の過剰投資に起因する不良債権問題、重化学工業などの分野に起きた設備過剰投資問題、沿岸部と内陸部間の経済発展不均衡及び国民間の貧富格差問題、全国範囲にわたる環境問題など枚挙にいとまがない。

②国外を見ると、主要輸出国向けの輸出伸びの鈍化、中国を排除した米国主導のTPP(環太平洋経済連携協定)推進など、中国にとって従来の経済成長環境が限界を来たし、世界第2位の経済規模を維持するために新たな外部環境を構築する必要があると認識され始めた。

③30数年の高度経済成長によって、中国のGDP規模はすでに世界第2位となり、外貨準備高、貿易総額は共に世界第1位に至っている。加えて「世界の工場」としての生産加工能力で、中国は海外に大きく進出する経済的な実力も身に付けたとの自信がついた。
「一帯一路構想と行動」が関連する西・南・中央アジア地域は、膨大な人口と豊富な天然資源、旺盛なインフラ開発ニーズ、重要な地政学的ポジションという三つのポイントを持つ。これらの地域を対象に中国の産業輸出と金融支援を行うことを通じて、多国横断的な巨大な経済圏とサプライチェーンを形成するという期待も高くなってきている。

(4) 結び

「一帯一路構想と行動」は、中国にとって、単純な国際資本移動によるグローバル展開だけではなく、今後の新たな発展ステージを目指す「第二次改革・開放」とも言われるほどの決意国策であり、その成功の可否は中国の今後の発展に重大な影響を及ぼす可能性がある。また、対象エリアに含まれる関連国、まさに歴史的な経済発展の好機と受け取っている。無論、中国に進出している日系企業の中には、西・南・中央アジア地域における新たな経済圏の形成は見逃すことのできないビジネスチャンスと期待している向きもある。

第一次ないし第二次世界大戦までの世界の歴史を振り返ると、自由貿易、通商政策の推進手段として、大別すると二つのパターンが見られる。大艦巨砲をツールにして強行推進する植民地通商方式と、相互尊重、自由融通である中国古代シルクロードの親善通商方式だ。中国の「一帯一路構想と行動」に対して、「地域拡張主義」ではとの捉え方もあるが、平和、民族融和の再現を強く意識した中国の「一帯一路構想と行動」の推進実現を、熱い視線で見守っていきたい。

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