アジアンインサイト
ミャンマーで30年ぶりの人口センサス実施

「6,000万人市場」から5,000万人市場へ

2014年10月16日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 高橋 陽子

2014年8月、ミャンマーの人口センサス暫定結果が発表された。総人口5,141万人という発表値は、従来の推計値(ミャンマー政府6,100万人、国際機関5,200-6,600万人)(※1)を大きく下回り、各方面で驚きをもって受け止められた。今回の暫定結果発表に伴うプラスの側面としては、総人口が各種推計値を下回ったことにより、同規模のGDPと仮定した場合には一人当たりGDPが1,000ドルを上回るという点が挙げられる(※2)。マイナスの側面としては、ミャンマーに進出済の一部の外資企業にとっては、同国における事業の収益予測等の下方修正を迫られる可能性が生じたという指摘がある(※3)

この推計値とのギャップについては、①人口の高齢化と少子化、②民族紛争、圧政、自然災害による国外流出増加、③貧困による労働者の国外流出増加の3点が主たる原因として専門家により報告されている(※4)。過去のミャンマー政府発表値は、1983年のセンサスの結果に基づく出生力調査結果(1991年、2001年)を用いた推計値(※5)であり、自然増加のみに依拠した推計であったため、②③のような流出人口は考慮されなかった。人口の流出規模については、タイに200-400万人、マレーシアに50万人、シンガポールに10万人以上、中国とインドについては把握不能であり、ミャンマー政府発表値の10%程度は流出済人口という推計もある(※6)

今回のセンサスは、前回の1983年のセンサス以来31年ぶりの実施である。ミャンマー政府は、国際機関および各国ドナーによる技術面・資金面の協力を得て、少数民族や宗派の課題などに配慮した調査マネジメントや透明性のある運営体制の実現、一斉調査のための調査員115,000人を確保した。なお、一部地域については少数民族問題、宗派問題等の観点から調査対象外とし、推計値をもって代用した。

調査項目は、年齢、性別、民族、婚姻状況、宗教、出生地、居住地、障害、学歴、就業・経済活動状況、住居の状況、同居者の死亡(過去12ヵ月間)・移民である(※7)

2014年8月の暫定結果では、州・管区別、都市・農村別、男女別等の集計結果および世帯規模が公表された。全ての集計結果は、次期総選挙実施が見込まれる2015年5月頃に発表予定としているが、民族、職業、産業については集計作業に時間を要するという理由により2015年末から2016年初頭(※8)、大統領選終了後に公表される見込みである。

2014年センサス暫定結果より、総人口の内、調査済みの5,020万人(推計部分を除いたもの。図表注1を参照)について概要を以下に提示する。

総人口は50,213,067人、内男性は24,225,304人(48.2%)、女性は25,987,763人(51.8%)であった(図表1)。世帯数については、僧院や病院の滞在者を除く一般世帯の数は1,089万世帯、平均世帯人数は4.39人であった(図表1)。

居住地別の人口規模では、ヤンゴン管区が最も多く736万人(全人口に占める割合は14.6%、以下同)、次いでエーヤワディー管区618万人(12.3%)、マンダレー管区615万人(12.2%)と2管区が同規模であった。同3管区で総人口の39.2%を占めた(図表2、3)。なお、人口密度は全国平均で76人/km2、ヤンゴン管区は最も高く723人/km2、マンダレー管区は206人/km2であった。

ミャンマーの都市人口は1,486万人で、総人口の29.6%が都市居住者であった(図表4)。国全体としては都市化が進展していないことが見て取れる。この水準は、国連の推計値(※9)によれば2015年の低開発国(31.4%)、低所得国(30.8%)とほぼ同等である。15州・管区中、都市人口が100万人以上であった州・管区はヤンゴン管区、マンダレー管区、シャン州、バゴー管区であった(図表2、4)。州・管区別都市人口規模と都市化率では、ヤンゴン管区が最も多く516万人、都市化率は70.1%と最も高かった。次いでマンダレー管区が214万人(都市化率は34.8%、以下同)、シャン州は139万人(24.0%)、バゴー管区は107万人(22.0%)であった。全都市人口に占めるヤンゴン管区とマンダレー管区の都市人口の割合は、それぞれ34.7%、14.4%であり、両管区の都市人口が全都市人口の約50%を占める結果となった。

次に、ミャンマーの人口の推移と年平均増加率を図表5に示した。総人口は、1948年の独立以来初のセンサスである1973年センサスでは2,890万人であった。1983年のセンサスでは3,530万人まで増加し、この期間の年平均人口増加率は2.25%であった。2014年センサスでは5,140万人まで増加したことから、1983年から2014年までの年平均人口増加率は1.26%であった。ほぼ同期間のASEAN諸国の年平均人口増加率1.6%(1985-2015年の予測値)(※10)と比較しても、ミャンマーの人口増加率は低位にあることが分かる。これには、前述の国外流出が影響している可能性があろう。

1983年センサス公表値の詳細につき、州・管区別、都市農村別人口、都市化率を図表6に、2014年センサス暫定結果の比較について図表7に示した。

1983年の総人口3,413万人を14の州・管区別(当時存在しなかったネピドーを除く全地域)に見てみると、エーヤワディー管区が最も多く499万人(全人口に占める割合は14.6%、以下同)、次いでマンダレー管区が458万人(13.4%)、ヤンゴン管区が397万人(11.6%)であり、同3管区で総人口の39.7%を占めた(図表6)。当時のヤンゴン管区は人口規模ではエーヤワディー管区とマンダレー管区に次ぐ存在にすぎなかったが、2014年には両管区の人口を120万人程度上回る最大規模の管区となった。その間のヤンゴン管区の人口増加率は年平均2.1%で、全国平均を上回るスピードで増加したことが見て取れる(図表7)。

都市人口については、1983年当時は847万人で、都市化率は現在より5%ポイント程度低い24.8%であった(図表6)。全州・管区中、都市人口が100万人以上であったのは、ヤンゴン管区(271万人、都市化率68.2%)、マンダレー管区(121万人、同26.5%)のみであった。ヤンゴン管区では当時から最も都市化が進んでおり、全都市人口に占めるヤンゴン管区とマンダレー管区の都市人口の割合は、それぞれ32.0%、14.3%であり、両管区の都市人口が全都市人口の約46.3%を占めていた。

この度の暫定結果発表は、過去の推計値とのギャップばかりが注目された感があるが、一人当たりGDPの修正に始まり、前述の通りの都市化の進展度合いや傾向の把握、人口集中地域の把握等、ミャンマーの社会経済状況を把握するための有益な情報を十分に提供してくれる。2015年に予定されている正式な集計結果の公表が待たれるところである。

以下図表:
図表注1: 2014年人口センサスでは、「*」印を付したラカイン州、カチン州、カイン州については少数民族問題、宗派問題等の観点から一部地域を調査対象外とし、同地域には1,206,353人を含むと推計した。調査済の50,213,067人に同推計値を加算し、総人口を51,419,420人と算出した。本稿中の図表では、調査対象外地域を除く50,213,067人についての暫定集計結果を対象とした。なお、図表5については推計部分も含む。

図表注2:
①(図表1~7)2014年データの出所:Department of Population, Ministry of Immigration and Population of the Republic of the Union of Myanmar, Provisional Results, Census Report Volume (I), Population and Housing Census of Myanmar, 2014, August 2014より大和総研作成
②(図表1~7)1983年データの出所:The Government of the Republic of the Union of Myanmar, Ministry of National Planning and Economic Development, Central Statistical Organization, Statistical Yearbook 2011より大和総研作成

図表1:ミャンマーの総人口および一般世帯数(2014年)
図表2:ミャンマーの人口分布(州・管区別/都市農村別)と都市化率(2014年)
図表3:ミャンマーの人口分布(州・管区別)
図表4:ミャンマーの都市人口分布(州・管区別)
図表5:ミャンマーの人口の推移と年平均増加率
図表6:ミャンマーの人口分布(州・管区別/都市農村別)と都市化率(1983年)
図表7:ミャンマーの人口の推移(州・管区別)と年平均増加率の比較(1983-2014年)

(※1)IMFの2014年推計値は6,623万人(International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, April 2014, 2014年10月1日閲覧)、世界銀行の2013年推計値は5,326万人(World Bank, World Development Indicators, 2014年10月1日閲覧)、国際連合の2010年推計値は5,193万人(Population Division of the Department of Economic and Social Affairs of the United Nations Secretariat, World Population Prospects: The 2012 Revision, 2014年10月1日閲覧)、アジア開発銀行の2013年推計値は6,160万人(Asia Development Bank, Key Indicators For Asia And The Pacific 2014, the 45th edition, August 2014)。なお、ミャンマー政府公式発表値は2013年6,097万人(Directorate of Investment and Company Administration, Myanmar Investment Guide、2014年10月1日閲覧)。
(※2)The Economist, Myanmar’s missing millions: The leftovers, Sep 4th 2014
(※3)Wall Street Journal, Companies Resize Ambitions in Myanmar After Census, Sept. 4 2014
(※4)Foreign Policy, Why Myanmar’s Leaders Misled the World About Its Population, September 2, 2014
(※5)The Government of the Republic of the Union of Myanmar, Ministry of National Planning and Economic Development, Central Statistical Organization, Statistical Yearbook 2011
(※6)The Economist, Myanmar’s missing millions: The leftovers, Sep 4th 2014
(※7)UNFPA Myanmar ウェブサイト(2014年10月1日閲覧)
(※8)UNFPA Myanmarウェブサイト(2014年10月1日閲覧)
(※9)United Nations, Population Division, Department of Economic and Social Affairs, World Urbanization Prospects: The 2014 Revision(2014年10月1日閲覧)
(※10)United Nations, Population Division, Department of Economic and Social Affairs, World Urbanization Prospects: The 2014 Revision(2014年10月1日閲覧)より大和総研算出

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